バレエ界のホープ 北九州初中出身の崔由姫さん
「コリアン」という個性アピールしたい
9月から1年間プロダンサー目指し、英ロイヤルバレエ団で研修
「とにかく朝からお米を食べられるのが最高に幸せ!」。穏やかな瞳が時折、いたずらっ子のようにくるくると動く。映画が好きで、最近はもっぱらビデオ鑑賞に「はまっている」という。「久々に日本に戻ると家族や友達の話についていけなくて。でも歌手なら宇多田ヒカルが好きかな」――。同胞に大きな勇気を与えた「第30回ローザンヌ国際バレエコンクール」での、最優秀の快挙から6カ月。プロダンサーを目指す同世代のトップに立った崔由姫さん(17)の踊りを8月初旬、都内のスタジオで初めて目にした。=インタビュー
神秘的な雰囲気
音楽が始まった瞬間、「踊りの精」が宿ったように思えた。魅惑的な表情、柔らかくしなやかな動作。あでやかでスピード感あふれる踊り。練習前に見せたあどけなさの残る17歳の素顔とは、まるで別人のようだ。彼女が持つ踊りの力に吸い込まれそうになり、一瞬、体が凍りついたような錯覚にとらわれてしまった。 最優秀の成績を収めたローザンヌ国際コンクールでは、コンテンポラリー・ダンス(現代舞踊)において優れた資質を有すると判断された人に与えられる「コンテンポラリー・ヴァリエーション賞」を受賞(「プロ研修賞」も同時受賞)、同賞によるオランダへの夏期研修にも招待参加(7月13〜20日)した。 「コンクールでコンテンポラリーを踊ったのは、今回が初めて」というから驚きだ。「元々はクラシックバレエが専門。初出場で最優秀を取ってしまったことに自分でも驚いたが、自由に踊れて楽しかった」と大物ぶりを見せつける。 留学先であったフランスの日仏芸術舞踊センター・工藤大貳代表は、「彼女のダンスには同世代のダンサーを目指す女の子にはない、神秘的な雰囲気がある。音楽性、技術面でも優れており、踊りに必要な表現力を身につけている。ローザンヌでは、その個性豊かでアーティスティックな面が評価されたのだろう」と話す。 「やるっきゃない」
5歳でバレエを始めた。本格的にのめりこんだのは、初級部5年生の頃。「寝ても覚めてもバレエのことで頭がいっぱいでほかのことは手につかなくなった。それまでは優等生だったけれど、勉強も遊びもバレエのために捨てた」。思いは募り、2年前、一大決心の末に単身渡仏した。年に1度の帰郷。当初は家が恋しくてたまらなかったが、「助けてくれたのは踊りだった。夢中になって踊っているうちにいつの間にか寂しさが消えていた」。 164センチ、43キロの体を支えるのは22センチの小さな足。美しいトゥ・シューズに包まれた痛々しいほど傷だらけで節くれだったその足は反面、打たれた鉄のような強さをも感じさせる。留学中、ハードな練習でその甲の骨を両足とも疲労骨折した時は、1カ月間松葉杖をついての生活を余儀なくされた。見学の日々が続いたが、「この程度で済んで良かった」と前向きに乗り切った。 9月からは、名門、英ロイヤルバレエ団での研修が始まる。プロダンサーに交じっての練習、1人暮らし。炊事、洗濯などもこなさなければならないが、不安はない。 「『日本で3世として生まれ、民族教育を受けてきたコリアン』という、私だけが持っている個性をアピールしたい。やるっきゃない」(李明花記者)
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