神奈川県が実施した「外国人の生活実態調査」


 神奈川県による県内在住外国人の生活実態に関する調査報告書が22日、発表された。外国人施策を進めるうえでの基礎資料にする目的で、県が企画し、「かながわ自治体の国際政策研究会」に調査を委託した。報告書の概要と調査結果をいくつかのポイントに絞って整理した。(張慧純記者)

同胞1、2世

生活学び課題解決へ/13人から詳細な証言

 調査報告書には、50〜80代の在日同胞13人にインタビューした内容が「在日朝鮮人1、2世の居場所と歴史」という章に整理されている。

 「在日朝鮮人1、2世」という枠で聞き取りを行ったのは、「日本社会と外国籍住民との関係を考えるうえでとりわけ重要なのが、在日朝鮮人の人々がたどってきた歴史」(報告書)との認識からだ。報告書は、「年金・医療保険、教育と文化継承、社会参加のあり方など、現在のさまざまな課題を理解するためにも、在日(朝鮮人)の人々がこれまでどのような問題を抱え、どのように生きてきたのか、その生活史から学ぶ必要がある」と指摘している。

 報告書には、差別の中を生き抜いてきた在日同胞の証言が詳細につづられている。そのうえで、章の最後に「求められる取り組み」として@在日朝鮮人高齢者が集える「場」の保障A制度的無年金者などへの支援B朝鮮学校に対する助成の充実や朝高卒業生の国立大学への受験資格の認定C本名が選択できる環境づくりや在日朝鮮人の歴史的経緯に関する学習の充実――などがあげられている。

 これらは、同胞が長年求めてきたもので、民族教育を制度的に保障する問題は、県が外国人市民の声を県政に反映させるために設置した外国人県民かながわ会議の提言(第1期)にも含まれている。

 今後、県は調査を通じて明らかになった課題を解決するため、「外国人会議でどの問題から優先的に施策化していくかを話し合い、知事への提言としてまとめたい」「市区町村にもさまざまな形で働きかけていく」(県民部国際課)と話している。求められるのは具体的な実行措置だ。

本名と通名

通名77%差別回避=^日常生活、就職15年前と変わらず

 在日同胞を含むオールドカマーが多くの場合「通名(日本名)」を使っている実態も浮かび上がった。オールドカマーの回答者中、本名を使用していると回答した人は22.8%、「通名使用」と「場合によって使い分け」と回答した人は、77.2%に上る。本名使用者の比率は、「18〜29歳」と「60歳以上」で若干高いものの、年代別にさほど変わりがなかった。

 84年調査でも「本名使用」は22.9%だった。オールドカマーの多くが「通名」を使用する現実は15年前と変わっておらず、「通名使用」が世代を越えて受け継がれている実態が浮かび上がった。

 「場合によって使い分け」と「通名使用」と回答した人に理由を尋ねたところ、「これまで通名を使用、変えると周囲が混乱」という回答が56.4%で最も多く、次いで「日常生活での差別回避」(44.9%)、「親が通名を使っている」(38.5%)、「就職差別回避」(26.9%)と続いた。

 ニューカマーも通名を利用している。東アジア出身者に「通名使用」と「場合によって使い分け」が合わせて29.1%存在しており、その理由は「日常生活での差別を避けるため」(37.6%)。オールドカマー、ニューカマー問わず、出自を隠さざるをえない日本社会の風土が浮かび上がった形だ。

ニューカマーとオールドカマー

共通する差別の実態/「入居」「就職」に顕著

 神奈川県には1999年末現在で11万6000人の外国籍住民が住んでいる。その代名詞だった在日同胞は今や全体の3割。「朝鮮・韓国」籍は28.3%で、中国(21.3%)、ブラジル(10.8%)、フィリピン(9.1%)がこれに続く。

 戦前から日本に住むオールドカマーと80年代から渡日したニューカマーは、渡日の経緯や生活実態が違う。しかし、両者が受けている差別の実態は共通していた。

 例えば入居差別。すべての回答者の4分の1が外国籍を理由に断られた経験を持っていた。オールドカマーは25.5%、ニューカマーは26.6%と数値に差がないことからも、外国人に対する入居差別が根深い問題であることをうかがわせている。

 就職差別も一様に受けていた。オールドカマーはどの年齢層も「外国籍が理由で希望する会社に入れなかった」ことを経験しており、就職差別が現在も根強く存続していることをうかがわせた。調査報告書では、オールドカマーに自営業者の比率が多いことをあげながら、「歴史的に行われてきた就職差別を裏打ちしたもの」とも分析している。

 ニューカマーはさらに就労形態が不安定であり、待遇面でも差別を感じている。東南アジア出身者は「給料が日本人より低い、昇給が遅い」(31.6%)、中南米出身者は「日本人がいやがる仕事をさせられる」(20.5%)と感じていた。また、オールドカマーもニューカマーも一様に仕事のうえで「差別的な発言や態度」を経験している。

調査の概要

18歳以上3000人にアンケート、1年余かけ、インタビューも

 調査報告書は約400ページでアンケート調査とインタビュー調査の2部構成。調査は、1999年12月〜2001年1月、県下に住む3024人の外国人(満18歳以上)を対象に行われた。

 アンケート調査では、国籍、居住地域、日本語理解度、就業形態や差別の実態、居住環境、こどもの教育、「通名」使用などについて聞いた。また、インタビュー調査は、公営住宅に暮らすインドシナ難民、在日朝鮮人、オーバーステイの外国人などのカテゴリーに分けて行われた。

 在日朝鮮人への聞き取りは、同胞が多く住む川崎市桜本地区などを中心に13人を対象に行われた。

 神奈川県は84年、当時主たる外国人であった朝鮮人、中国人を対象に調査を実施したことがある。しかし、近年ほかの外国人が増えていることから、今回は来日時期、出身地域ごとに細かく調査することにした。調査の結果、84年当時は4万6000人だった外国人の数が11万6000人にふくれあがり、外国人の3分の2を占めた在日同胞の割合が3割になるなど、外国人の増加、多様化が進んでいる実態が浮き彫りになった。また、調査では在日朝鮮人らをオールドカマー(52年5月以前から日本に居住)、それ以外の外国人をニューカマーと定義し、共通点や差異点を分析している。問い合わせ=県民部国際課企画班、TEL  045・210・3748

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報告書を読んで−皮進・鶴見支部委員長

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