無年金の同胞高齢者・障害者

「いつまで差別続けるのか」厚生労働省に要望、強い怒り


 「人間を生かさない厚生労働省を許せない」――。日本政府の差別政策により無年金状態を強いられている同胞高齢者、障害者20余人が5日、東京・永田町の衆議院第2会館で厚生労働省に差別解消を求める要望書を提出し1時間にわたって話し合いをした。同胞無年金障害者らで結成される「年金制度の国籍条項を完全撤廃させる全国連絡会」(李幸宏代表)のメンバーで、在日同胞福祉連絡会 (愼英弘代表)の会員も参加した。(生活・権利欄に関連記事)

 国民年金制度の国籍条項撤廃時(82年)に日本政府が経過措置を取らなかった結果、現在75歳以上の同胞高齢者と39歳以上の同胞障害者は無年金状態に置かれ、苦しい生活を強いられている。高齢、障害のため働くこともできない彼らにとって、「無年金」は生活を脅かす深刻な問題だ。

 要望に訪れた同胞たちは対応した厚生労働省の職員に対し、日本政府の差別政策を強く非難した。

 愛知県在住で脳性マヒ障害を持つ鄭秀永さん(52)が厚生労働省に要望するのは今回で4度目だ。重い障害を抱える鄭さんは、日本人支援者とともに車イスで上京。厚生労働省職員の1番近い席に座り、不条理を訴えた。「こんなやり方は世界で通じない。人間を生かさない厚生労働省だったらつぶして欲しい」――。声を振り絞り、切々と訴えた。

 鄭さんの母親も無年金で、2人は母親の生活保護費だけで暮らしをつないでいる。

 鄭さんが年金がもらえないということを知ったのは24歳の頃だった。自分のために身を粉にして働く母親が寝込んだ時、「このまま生きとったらいかん」と思い、自殺を考えた。そんな時、知り合いに告げられた。「おまえは国籍が違うから年金がもらえない」――。その時やっと、生活が苦しい訳がわかった。施設で他人が買い物に行く時、自分だけ置いていかれるのは家が貧しいばかりと思っていた。全国にいる同胞障害者と連絡を取り合い、国籍による差別を調べ始めた。

◇                               ◇

 年金差別は新たな差別も生んでいる。

 3歳の時、はしかにかかり、聴覚障害が残った岡山市在住の具安順さん(47、美容師)は、2年前、地域振興券の支給対象から外された悔しさをぶつけた。

 政府の消費促進策として支給された地域振興券は、対象に外国人も含まれたものの、障害者の場合は「障害基礎年金受給者」が条件だったため、具さんのように無年金の同胞は対象外になったのだ。

 「自分の口で政府にこの事実を直接訴えたかった」。真向かいに座った厚生労働省の役人を見る目は怒りにあふれていた。

 昨年4月に始まった介護保険制度も無年金高齢者の生活を圧迫している。

 川崎市に住む盧末南さん(88)は市が無年金の外国人高齢者に対する救済措置として支給する2万余円の福祉金で暮らす。心臓、肝臓、動脈硬化を患っていることから、治療費や介護保険料を払うと生活費は残らない。68歳から定時制の中学、高校で文字を学び、この10年間、行政に足を運び差別是正と救済措置を求めてきた。この日もレポート用紙4枚に発言をまとめ、要望に臨んだ。

 「日本に強制連行され、きつい労働を強いられ命をなくした数多くの同胞をこの目で見てきた。朝鮮人は日本のために死んだ。植民地時代にさんざん朝鮮人をいじめ、解放後は外国人だと差別する。日本を許せない」――。過去を反省しない日本への強い怒り、必ずや態度を改めさせるという執念が盧さんを闘いに向かわせた。

◇                                ◇

 要望には中川智子・衆院議員(社民党)らも同席。厚生労働省の論理が破たんしていることを重ねて強調しながら、国会内でこの問題をより多くの議員に知らせ、問題を解決したいと決意を述べていた。(張慧純記者)

日本語版TOPページ

 

会談の関連記事