公安調査庁の外国人登録原票違法調査事件
緊急集会の発言から

在日朝鮮人を治安視―公安への開示、日常化

田中宏・龍谷大教授


 日本の国家権力が外国人登録原票(外登原票)を不当に利用したのは今回が初めてではない。1980年代に起こった指紋押捺拒否運動時にその違法性を問う裁判にも関わったが、その過程でも警察が自治体にひんぱんに出入りして原票のコピーをとっていたことが明らかになった。

 96年に発覚した東京・小平警察署による外登原票利用入手事件では、同警察署が15年以上にもわたって3000人以上の原票を入手していたことが判明した。当時、さすがの法務省も小平市の対応は不適切、間違っているとして、少なくともどこの役所が何の目的のためにどのような外国人について情報が必要なのかということを公文書に明記しない限り原票を開示してはいけないという通達を出した(96年12月6日)。

 さらに指紋押捺制度を全廃した99年の外登法改正時、衆議院法務委員会は「登録原票の開示に当たっては、外国人のプライバシーが不当に侵害されることがないよう適切な措置を講ずること」と付帯決議している。法律で公開が制限されているにもかかわらず、今回の公安調査庁(公調)の件の発端となった京都市の場合、昨年度までの2年間にも公調の40件の開示請求に対して32件を開示していた。公安に対する原票開示が常態化していたのだ。

 外登原票には職業、勤務先または事務所の名称および所在地が明記され、さらに顔写真、署名も入る。日本人の住民記録とは情報量がぜんぜん違う。きわめて高度な個人情報であり、だからこそ行政には守秘義務があるのだ。今回の事件で行政の人権意識の低さも露呈された。

 今後、全国の行政に対して徹底した再発防止策を求め、それを広報などに載せるよう求めていくべきだが、問題の根本は外国人を治安視する外国人登録法にある。

 日本人の場合、外登法にあたるのは、住民基本台帳法(住基法)だが、条文を比較しても違いは明らかだ。まず目的の部分。住基法は「住民の利便を増進する」だが、外登法は「在留外国人の公正な管理」。最大の違いは、外国人には外国人登録証の携帯・提示義務を課し、法に違反した場合、刑罰を科している点だ。

 外国人にのみ刑罰を科すことに、何の合理的理由があるのか。また、住基法には公務員の守秘義務が明記されているが、外登法にはない。同じ住民記録なのにこれだけの差が生じるところに、外国人を治安視し、管理しようとする日本政府の姿勢が貫かれている。

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