読 書
「白磁の人」
江宮隆之著
日本敗戦の直後、1945年夏のことだ。
在朝日本人の立ち退きを求めて朝鮮の民衆がその家に押しかけるという出来事があった。浅川巧が亡き後もソウルにとどまっていた遺族もそうした民衆に押しかけられた。 が、やがてその家が巧の家であることを知り、人々はそのまま静かに立ち去った。 日本の植民地支配下の朝鮮で、民芸の中に朝鮮民族文化の美を見つけ出し、朝鮮の人々を愛し、朝鮮の人々から愛された1人の日本人林業技師がいた。 日本では浅川巧、という名前さえあまり知られることがなく、現在もソウル郊外の共同墓地に眠る。その墓は朝鮮の人々によって守られつづけたのである。 巧は敬けんなクリスチャンであった。巧の朝鮮の人々への態度をキリスト教の博愛で説明しようとする立場もあるが、むしろ信仰に基づく行為というよりも巧という人間が持っている心の純粋さと考えたい、と筆者は記している。 人は「どう生きたか、何をしたか」を問われると。 本書はなぜ、巧が朝鮮民族の心の中に生き続け、慕われ続けているかを確かな歴史的視点と豊富な取材で裏づけている。心洗われる1冊である。 (500円、河出書房新社、東京都渋谷区千駄ヶ谷2―32―2、TEL 03・3404・8611) |