南北会談の成功
人間への確信蘇らせた

重藤 都


 南北首脳会談をテレビで見ながら、私は興奮していました。胸が締めつけられる感動が何日も続きました。人間とはこんなことができるのか。自分が人間への確信を忘れかけていたことを改めて考えました。

 よみがえってきた言葉がありました。「大きな希望が生まれました。戦争はやめさせることができます」。学生時代のストックホルムアピール(1950年)の冒頭の呼びかけです。それは朝鮮戦争のさなかでした。福岡の板付飛行場に近接する私の大学は、発進し帰着する爆撃機の編隊の下にありました。教室の沈黙、ごう音はその上に雪崩れ落ちるようでした。戦災の跡が生々しいのに、もう始まった戦争。しかし、私は知人を気遣う母の言葉を聞きつつ、生まれ故郷の釜山がわずかに戦火を免れたことにホッとしているだけでした。

 生まれた時はすでに戦争中。6年生ではじめて平和に出会った私は、戦争を自然現象のように受け止めていました。

 「戦争はやめさせることができる」。大きな衝撃でした。衝撃は多くの人をとらえ、ストックホルムアピールの署名用紙が電車の中でさえ手から手へ渡されました。私の平和運動の原点です。そして南北首脳会談が忘れていた人間への確信を呼び戻してくれたのです。

 朝鮮民族は100年間の日本の侵略と植民地支配の過酷、戦争と分断の悲惨を糧として、現状をありのままに受けとめる勇気とそれを乗り越える確信を自分のものとした、類ない文化をつくりだしたのだと思います。

 南北会談の成功は、朝鮮民族の宝であるだけでなく人類の宝です。私たち日本人はその勇気と確信とを真剣に学ばねばなりません。学んで日本を変えねばなりません。大きな勇気を与えて下さったことに今私は深く感謝しています。

 朝鮮南北、在日のみなさん、本当にありがとう。
(「東京日朝女性の会」世話人)

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