女のCHINEMA

「オール・アバウト・マイ・マザー」


高らかな女性賛歌 

 多様な現代女性の生を鮮やかに描いて、既成のでない新たな母性を提示し、性差を乗り越えた汎女性的連帯への高らかな賛歌。

 息子の17歳の誕生日に、事故で息子を失った母。彼女はマドリードで臓器移植コーディネーターをしている。息子の心臓移植を最後に、かつて青春時代を過ごしたバルセロナへと旅立つ。生前、息子に1度も語ってやれなかった行方不明の父親を探した。

 バルセロナで出会ったのは、「世間の常識」からはずれた女性たちばかり。

 息子が大ファンだった「欲望という名の電車」(劇中劇)の「ブランチ」役の名女優は同性愛者。その相手の新進女優はドラッグ中毒。HIV感染の赤ん坊を身ごもりながら福祉活動をしている修道女。その生き方を認めない母親は、痴呆の夫を抱えながら贋(がん)作を生業とする画家。そして、旧交を暖め合った友人は性転換した娼婦。

 自己実現を求めて生きる個性豊かな女性たちが、男社会でひどく傷ついていた。愚直なまでに愛した息子を失った母の悲しみも底知れず。癒されぬ思いに、最初は互いにギクシャクしながら、やがて呼応し、反響しあう楽器のように奏でられる女たちの生。

  神話や 本能 など、押しつけられた語彙(ごい)の上につく 母性は女たちによって断ち切られている。真の人間的母性は、他者をありのままに受け入れることの営み。助け合ってこそ、生きられ、助け合わずには生きられない。涙と笑いに満ち、生き生きとした女たちの熱いドラマとの対比に、ここに描かれた男の生は、没個性そのもの。

 バルセロナの夜景の鮮烈さ、赤い口紅、赤いコート。スクリーンを覆う赤は、女たちの鮮明な意思表示であろう。

ペドロ・アルモドバル監督。1時間41分。スペイン映画。 (鈴)

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