石原発言で学者シンポ、東大で
極右ポピュリスト∞屈折した差別主義者
歴史的背景、欧州との比較−問題掘り下げる 東京大学教養学部の教員ら8人の学者を呼びかけ人とするシンポジウム「『三国人』発言を考える」が20日、東京・目黒区の東大教養学部で行われた。 石原慎太郎東京都知事の外国人排斥的な一連の発言を受けて開かれたもので、慶應義塾大学の小熊英二助教授(歴史社会学)、千葉大学の趙景達教授(朝鮮史)、東大の高橋哲哉助教授(哲学)、足立信彦助教授(近代ドイツ文化・思想)、小森陽一教授(日本近代文学)が発言した。 小熊助教授は「石原発言の歴史的意味」と題して発言。石原都知事は、反既成政党・反官僚の機運に乗って当選した右派ポピュリスト(ポピュリズム=大衆扇動政治)であり、青島・ノック現象以降の「地盤選挙」の無効化と都市部で顕著なポピュリズムの台頭を象徴していると指摘した。 さらに「三国人」という言葉の問題として問題を矮小化するマスコミの論調に違和感を表明しながら、石原発言で最も大きな危機感を感じるべきは自衛隊に治安維持の演習を要請したところだと指摘。にもかかわらず、「三国人」という言葉にのみ注目が集まるのは、つまり、日本社会のマジョリティが自分たちがやられるとは思っておらず危機感をまったく持っていないということで、石原もその反応を見てほくそ笑んでいることだろうと述べた。さらに「三国人」という差別語を使ったからいけないのだという認識は、つまり、自分の問題ではないと思っているということで、ますますなめられるだけだと強調した。 趙教授は「日本のアジア主義」と題し、古代から一貫して日本のアジア主義は国家的言説に満ちていると指摘。石原発言にしても、森首相の「神の国」発言にしても、偶然ではなく日本国家主義の構造的問題だと強調した。 「極右の顔を持つ首都東京」と題して発言した高橋助教授は、現状は、右翼どころか極右が台頭している危険な状況だと理解すべきであり、一般的にその認識が不足していると指摘した。そして、石原の今回の発言はデマゴギーとしての危険性に満ちており、彼があらゆるマイノリティに対する差別意識を深く内面化した政治家であることを改めて露呈したと述べた。 さらにヨーロッパの極右との共通性は歴史修正主義と外国人排斥が一体化している点だとしながら、しかしヨーロッパでは極右が台頭しないように刑事犯罪として追及される点が大きく違うと指摘した。 足立助教授は「外国人と犯罪―あるありふれた言説について」と題して発言。石原知事の外国人と犯罪を結びつける発想それ自体はありふれた凡庸な言説であり、その発言には正確な裏付けがないが、その凡庸さと裏付けのなさこそが発言を極めて危険なものにしていると強調した。そして外国人問題とはプロパガンダに容易に左右される問題であり、ヨーロッパでは極右のデマゴーグとして選挙のたびに使われていると指摘。これまでそのように使われることのなかった日本でも今回、石原発言を支持する声が多かったことで、政治家たちが使おうとしないかどうかが憂慮されると述べた。 小森教授は、「『三国人』という言葉」と題して発言し、問題は、敗戦後、「三国人」という言葉を差別的に使った側、つまり敗戦の悔しさを差別に転化した当時の日本人の屈折した感情であると述べた。 そして敗戦後、そのようなうっ屈した感情を解消するために55年、「太陽の季節」でデビューしたのが石原であり、一連の石原文学の基本的なテーマがここにあると指摘。今回、問題になっている一連の発言でも、彼が一番言いたかったのは騒乱の時に自衛隊を「軍」として出動させるということだと強調した。 |