石原発言 その後…

日本の人権、平和覆す


 「…不法入国した多くの外国人、三国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している…。大きな騒じょう事件すら想定される」(4月9日、陸上自衛隊練馬駐屯地での式典のあいさつで)。東京都の石原慎太郎知事の発言から1ヵ月。マスコミの非難は静まったが、その一方で発言の問題点や危険性を訴え続けている人々がいる。4月30日に行われた緊急リレートーク「『万国人』が大騒ぎ〜私はなぜ石原発言に怒るのか〜」(主催=ピースボート)、28日に行われた「多文化共生をめざし、石原都知事に『No』と言える4.28集会」(「民族共生教育をめざす東京連絡会」などが呼びかけ)の2つの集会(東京・アジア青少年センター)で発せられた声を拾った。

法廷闘争、辞任運動をの声も/市民団体、民主主義の危機訴える

一部の「支持」に憂慮

 「彼(石原都知事)の発言を聞いて、言葉の不自由な人、肌の色の違う人…。明らかに違いがわかる人がやられるなと、直観的に思った」
 「彼はレッテルを貼った。あいつは悪い奴だ、こいつは悪い奴だ。あそこはゲットーだ。なに(外国)人は何をしてる…。犯罪そのものを見るのではなく、レッテルを貼って、あいつを叩けとターゲットを明確にした。不法入国、凶悪犯罪という言葉、死語になった三国人ということばをさらに復活させた。非常に扇動的で不誠実だ」

 発言の直後から非難の声を強めてきた人材育成コンサルタントの辛淑玉さんは、集会でこう切り出し、都知事の発言は「新しい戦前のスタート」と語気を強めた。

 2つの集会で目立ったのは、都民の一部が知事の発言を支持していることに対する憂慮の声だった。

 在日中国人の王慧槿さん(都立高校教員)は、「都民の支持が多いというデータが怖い。石原発言は外国人に対する恐怖心の裏返しだという声があったが、それならば、石原氏の持っている恐怖心、日本人の持っている恐怖心とはいったい何なのか、きちんと聞いてみたい」と不安を隠しきれない様子だった。

 王さんによると現在、日本には約27万人の中国人が住んでおり、90年代からはニューカマー、とりわけ幼児期の子供を持つ家族が増えている。

 「賃金が安い彼らは、一番声をあげられない弱い存在だ」

「犯罪増加」の虚構

 集会では、都知事が発言の論拠とした「外国人の犯罪の増加」についても、警察白書の意図的な数字操作によって外国人犯罪の凶悪化、増加が煽られていることが指摘される一方、実際は「来日外国人」の刑法犯検挙人員は減少しているとの報告もなされた。

 差別発言を許す日本社会の風土を正す方策についても積極的な意見が出された。中国、フランスなどの在日外国人は、人種差別を罰する法律を作り、法廷闘争に持ち込むべきと主張した。また、多くの人の声を集め、都知事を辞任に追い込むべきとの声も多かった。

 祖父が関東大震災の時にあやうく虐殺から免れたというエッセイストの朴慶南さんは、「いちばん恐ろしさを感じるのは、自衛隊を軍隊として認め、何か騒動が起きたら、それを鎮圧するために発動するということ。都知事は軍国主義を果たそうとする確信犯だ。既成事実を積み重ね、どんどん人間を麻痺させている」と指摘した。

 「石原発言を支持する草の根ファシズムが日本を覆っている。ここで止めなければ、外国人だけでなく、日本人が築き上げた人権、平和、民主主義、生活のすべてが覆されるということを分かって欲しい」(朴さん)(張慧純記者、関連記事) 

フランスでは処罰対象/エチエンヌ・バラール

 日本にフランスと同じような人種差別に関する法律があれば、石原知事はこのような発言は出来なかった。

 フランスの法律は、1789年の人権宣言をベースにしたもので、人種、性、障害、宗教などによる差別を堅く禁じている。

 実際、仏のプロバンス地方のヴィトロール市のメグレ市長(当時、極右の国民戦線に所属)が、ドイツの新聞のインタビュー(97年2月)に応じ、「治安の悪さは移民のせい」と差別発言をし、罰せられたことがある。市民団体「人種差別SOS」と720人の個人が「人種憎しみ教唆」の疑いで市長を告訴した結果で、裁判所はメグレ市長に罰金100万円と懲役3ヵ月の判決を下した。石原氏がフランス人であれば、明らかに裁判で負けていただろう。

 日本でもNGOなどが協力し合って人種差別を罰する法律を作り、裁判という場できちんと訴えるのも、差別発言を防止する1つの手だ。(在日フランス人ジャーナリスト)

「誰かが殺しに来る」不安/M・ズベル

 都知事は4月12日に都庁で行われた記者会見で、「中国製の覚せい剤がどんどん輸入されてきて、売るのはパキスタン人が主らしい」と発言したが、彼は完全に嘘をついている。

 パキスタン大使館は「警察、行政機関からもそのような苦情が来たことはない」と声明を発表(13日)し、「主張に根拠がない」と非難したが、知事は明らかに何らかの目的をもってパキスタンという言葉を使っているのだ。

 先日、都知事の事務所を訪ね、パキスタン人がこのような犯罪に荷担したことがあるか、きちんと証明してくれと要請した。

 日本に来て12年。妻は日本人で子供もいるが、とても不安だ。明日にも、誰かが私の子供を殺しに来るのかとも思った。いちばん困っているのは、普通のパキスタン人なのだ。

 「三国人」の意味も、今回調べて初めて知ったが、非常に悲しくなった。知事の発言を決して許してはならない。 (在日パキスタン人ジャーナリスト)

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