私の会った人

野添憲治さん


 日本の過去と向き合い、その罪行を掘り起こすために、取り組む人々がいる。秋田県・能代町に住む作家の野添憲治さんもその1人。

 著書「花岡事件の人たち」で知られるが、強制連行調査にこだわり続けているのは、55年前に見た光景を忘れられないからだ。「花岡鉱山で働いていた中国人たちが逃亡し、村役場の広場に引きづり出されて来た。その時、学校の先生が『チャンコロに唾を吐け』といったのです」。

 その時のことを思い出すと、記憶がふっと心をよぎり、なぜか言葉が出てこなくなる。体が震え出すという。

 「自分も加害者の1人だという気持ちが沸き上がってどうしようもなくなるのです」。その「恐れと激しい自省の念」が後に花岡事件の真相調査へと向かわせたのだ。この35年、こつこつと聞き歩いて、あの夜、何があったのか丹念に再構築するのをやめなかった。しかし、「花岡」の本を出版するたびに深夜の無言電話、脅迫電話の回数が増えるようになった。「子供たちは夜、家から出られず、窓ガラスが割られ、家族を殺すとも脅されました」。

 花岡 に続いて野添さんらによる朝鮮人強制連行調査の着手が報道されると 今度は朝鮮で売名するのか と中傷されたと言う。これまで浴びせられた罵声は数知れないが、それで挫けることはない。 日本は過去の犯罪を隠そうとしても隠し通せない。世界中のだれもが知っている。そのことを日本人は認識すべきだ」。 (粉) 

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