日本の過去の清算、被害者は訴える(4)

国際世論が日本の戦争犯罪指弾へ
ー被害者の尊厳回復の筋道もー


  日本の植民地支配の責任を求める声は、被害者たちの訴えがなければ、ここまで発展しなかった。日本政府は敗戦から半世紀以上過ぎた今も、被害者たちにその責任を果たしていない。しかし、被害者の訴えが、力強い叫びとなり、問題解決を導く国際的な世論を作りあげた。

南北朝鮮で415人の性奴隷被害者、勇気を起こして訴える

国連・現代奴隷制作業部会で証言する朝鮮民主主義人民共和国の「慰安部」被害者鄭松明さん(93年5月)


 

  国連・現代奴隷制作業部会で証言する朝鮮民主主義人民共和国の「慰安部」被害者
         ソウル市に在住する被害者姜徳景さん
(93年5月)
                        

 

結婚して2日目に寝込みをおそわれて北海道の川炭鉱に連行された鄭明秀さん(名古屋市、故人)も国連で証言した(93年5月)

                           

  「民間の業者がそうした方々をともに連れ歩いている」(91年6月6日の参院予算委員会)。

 日本軍「慰安婦」問題を追及する国会議員の質問に、日本政府はその責任を民間に肩代わりさせる発言を行なった。しかし、この無責任な発言が、被害者の長い沈黙を噴出させた。91年8月、南朝鮮の金学順さん(故人)が、朝鮮半島に住む元「従軍慰安婦」として初めて名乗りを上げたのだ。

 「どうしてこうした嘘をつくのですか。現に『従軍慰安婦』にされた私がここに生きているのです。50年間、私は我慢に我慢を重ねてきました。いても立ってもいられず、思案に思案を重ねて、やっと名乗りでたのです。私の一生を台無しにした日本人の前で、どうして私が言えない理由などがあるでしょうか」。

 この年の12月に来日した金さんは、日本軍「慰安婦」として77年に最初に確認された沖縄在住の「奉奇さん(91年10月に他界)にはぜひ会いたかったと語りながら、「「さんが晩年、人にも会おうともしなかったのは、それだけ心の傷が深かったからだ。「さんを1人で死なせた日本という国は、きちんとしたことは何もしていない」と非難した。

 金さんの告発はその後、世界に広がった。朝鮮、フィリピン、台湾、中国、インドネシア、マレーシア、オランダで「慰安婦」被害者が次々と名のりを上げた。朝鮮でも92年5月3日に平安南道に住む李京生さんが12歳の時に連行された事実を訴えた。

 現在まで名乗り出た朝鮮半島の元「慰安婦」被害者の数は、北で218人(「従軍慰安婦・太平洋戦争被害者補償対策委員会」の調査)、南で197人(「ハンギョレ21」4月20日号)に達する。

報告書、決断・・・次々と日本の責任回避、国連で破たん

 被害者の訴えは、その後、大きな国際問題へと発展していった。

 国連での議論がその象徴だ。98年8月の国連人権委員会差別防止・少数者保護小委員会で全会一致で採択されたマクドゥーガル特別報告者の報告書は、92年から始まった日本の戦争犯罪を追及する国連の議論の集大成といえよう。

 「武力戦争下の組織的強かん、性奴隷制および奴隷制類似慣行(強制労働)に関する最終報告書」と題する報告書は、日本軍「慰安婦」という性奴隷制は戦争犯罪であり、人道に対する罪にあたると断定。戦争犯罪には時効がないため、日本政府には法的責任があるとし、責任者の処罰と被害者への国家補償を勧告した。また、99年に同委員会は「慰安婦」、強制労働などの違法行為に対する賠償は、2国間条約で解決されていないとし、日本政府に法的責任を求める決議を採択した。

 日本政府は、国連で日本の戦争犯罪が討議された当初から、「奴隷禁止は当時の国際法ではない。朝鮮人は当時日本国民であり、外国人ではなかった。サンフランシスコ講和条約や2国間条約で解決済み」などと抗弁してきたが、その論理がすべて破たんしたのだ。

 報告書や決議に象徴されるように、国連でこの問題が論議された最大の成果は、被害者の尊厳を回復する道筋が示されたことにある。

 「慰安婦」、強制連行問題が国連の舞台で取り上げられた当初から南北朝鮮、日本、世界のNGОは、被害者の発言を行ったり、問題の所在を訴えるNGO会議を共催するなど、国際世論を盛り上げてきた。  被害者の訴えは、問題解決への国際的な合意に結実したのだ。

変わらないのは日本だけ、民間募金、一時金、「植民地は合法」

 被害者たちが当初から求めていたものは、真相究明、公式謝罪、国家補償、責任者の処罰だ。国際社会もそれを認めた。しかし日本政府は道義的責任は認めたものの、国際法を違反した法的責任は否定し続けている。「慰安婦」被害者に対する民間基金や日本軍の軍人・軍属として駆り出された旧植民地出身者に対する「一時金」構想など、日本政府が進める「戦後補償」は、すべて植民地支配は合法との前提に立ち、国家、法的責任を回避したものだ。

 90年代に入って、日本の政府や企業を相手とする裁判が日本国内で相次いで提起されている。裁判の原告は強制連行された朝鮮人、中国人、「従軍慰安婦」とされた朝鮮人、フィリピン人、中国人、日本の軍人軍属として駆り出された旧植民地出身の犠牲者たちで、その数は50件を越えているが、山口地裁下関支部における部分勝訴(98年4月)以外は、すべて請求棄却だ。

女性国際法廷、米国で補償法制度/収まることのない追及の声

 しかし、21世紀を目前にした今、日本の戦争犯罪を追及する声は、収まる所を知らない。

 今月に日本との国交正常化交渉を再開した朝鮮は、過去の清算問題を優先的に解決することを求め、謝罪、補償を要求した。

  日本の戦争犯罪を追及する声は、アメリカでも上がっている。昨年7月にカリフォルニア州議会では、第2次世界大戦を含む29年から45年の間に「ナチ・ドイツとその同盟国(日本)、さらにその占領地で事業を行った企業によって強制労働させられた人々が損害賠償を請求できる期限を2010年までに延長する」との法律が成立した。法律制定を受け、昨年10月には同州に住む「韓国籍」のキム・ソユンさんが旧石川島造船所(現石川島播磨重工業)と旧浦賀造船所(現住友重機械工業)で強制労働させられたとして、当時支払われなかった賃金と非人道的な待遇に対する損害賠償の支払いを求める訴訟をサンフランシスコの州地裁に起こした。

 今年の12月には「女性国際戦犯法廷」が東京で開かれる。日本軍性奴隷制を裁く国際的な民間法廷だ。性奴隷、強制労働など戦争犯罪を防ぐためには、加害者を処罰すべきという国際的な流れを、日本が受け入れることを目的としている。

 被害者が発した尊厳回復の訴えをどのように受け止めるのか。半世紀以上たった今も、日本にその課題が突きつけられている。     (張慧純、おわり)

 

 日本政府の戦争責任を追及する朝鮮、国連機関および諸外国の勧告など


アジアの女性たちはいち早く手を結び日本の戦争犯罪を追及する世論を盛り上げた (93年4月に東京で開かれた第4回「アジアの平和と女性の役割」 シンポジウム)

◇ 朝・日国交正常化第1回会談での朝鮮側(田仁徹団長)の主張   (91年1月30〜31)

  日本国家および政府最高当局者の公式謝罪、外交文書での謝罪、1910年の「韓日併合条約」をはじめ日本が旧朝鮮に強要したすべての条約と協定の不法、無効宣言を要求。


◇ 国連人権委員会・現代奴隷制作業部会の決議(93年5月)

  「慰安婦」、強制労働に関する資料を、特別報告者と小委員会に提出することを要求(同作業部会で在日朝鮮人の強制労働被害者、南北朝鮮の「慰安婦」被害者が初めて証言)。


◇ 国連人権委員会の決議(96年4月19日)

  日本軍「慰安婦」を「軍事的性奴隷」、「人道に対する罪」と断定し、国際法を違反した法的責任を要求するクマラスワミ特別報告官の報告書に歓迎、留意。報告書は、法的責任の受諾、被害者に対する個人補償、資料の全面公開、書面による公式謝罪、歴史教育、関与者の特定・処罰―を勧告した(日本軍「慰安婦」制度を非難する初めての国際的公的報告書)。


◇ 米国・司法省、731部隊・「慰安婦」関係者の入国禁止措置(96年12月3日)

   第2次大戦中に非人道的行為をしたとして、731部隊関係者と慰安所の運営に関与していた旧日本軍出身の日本人16人が監視リストに載せられ、入国を禁じられる。

◇ 日本弁護士連合会の勧告(98年3月6日)

 日本政府の法的責任を明確にし、「慰安婦」被害者に謝罪、立法による補償措置などを早急に検討すべき。97年7月に続く2度目の勧告

◇フィリピン下院人権小委決議(99年2月11日)

 日本政府に「慰安婦」被害者への補償法制定を求める。

◇朝鮮民主主義人民共和国政府声明(99年8月10日)

  朝・日関係の現状と関連した3つの原則的立場を表明。対朝鮮圧殺政策の放棄、朝鮮人民に犯した過去の罪に対する誠意ある謝罪と徹底した補償を要求。


◇米国カリフォルニア州議会決議(下院は99年8月23日、上院は8月24日)

 第2次大戦中に日本軍が起こした戦争犯罪の明確な謝罪と被害者への早急な補償を要求。

◇国連人権委員会差別防止・少数者保護小委員会の決議(マクドゥーガル報告、  99年8月26日)

 「慰安婦」、強制労働などの違法行為に関して、国際法で認められている国家、個人の義務と権利は平和条約で無効にできない(「平和条約で解決済み」とする日本の主張を全面から否定。決議に法的責任が含まれたのは初めて)。

◇香港立法会決議(2000年1月12日)

 中国、香港への侵略と戦争犯罪に対する謝罪、賠償、非公開資料・秘密文献の公開などを要求。

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