取材ノート

一人で背負い続けた過去


 宮城県に住む宋神道さん(77)は、7年間強いられた「慰安婦」生活の記憶に今も苦しみ続けている。

 「どんなに親切にされても、今まで何度もだまされてきたから、朝鮮人だろうが日本人だろうが、他人は信用できねえんだ。人間、一寸先の心はわからない」。枕の下に包丁を置いて寝る時もあったほど、周りに対する不信感は相当なものだった。

 慰安所に連行されたのは、わずか16歳の時だ。日本兵に強かんされ続け、殴る蹴るの暴行を受けた。解放後も、周りの日本人に「俺たちの金で生活保護を受けて食っているくせに」とののしられた。

 罪を負った者は罰せられるのが当然だ。しかし、この当たり前のことがなされなかった。ゆえに、被害者たちは、たった一人で過去を背負い続けてきた。加害者の日本が自分の責任でこの問題に取り組めば、この労苦はまだ軽くなったはずだ。

 宋さんの左腕には「金子」という刺青がある。慰安所で日本兵に入れられたものだ。針でとろうと何度も試みたが、とれなかった。過去の記憶は「死んで灰にならないかぎりは忘れることができない」(宋さん)。

 朝・日の国交正常化交渉が再開され、過去の清算問題が浮上している。しかし、被害者が負った傷と痛みは、とても「清算」できるものではない。

 請求権か賠償か、金額の線をどこに引くのか――。血のにじむ痛みや声の前に、小手先の議論がどれだけの力を持つだろう。

 一番辛い思いをした被害者の傷を癒し、穏やかな余生を送ってもらうためには何が必要か。その原点から出発してほしい。 (張慧純記者)

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