それぞれの四季

「サンナムルを採りに」/金佳姫


   春になった。太陽と風と土のにおいに誘われるように1冊の本を手にした。

  タイトルは「サンナムルを採りに―他郷に生きて―」。昔から私たちの祖先は山で山菜を採っては春の食卓を彩ってきた。在日1世たちは日本に渡った後も同じように山菜を生活の糧にした。本は、そんな1世の生活を生き生きと伝える。

 国を奪われた苦しみ、差別の痛み、そしてその中で強く太く生きてきたそれぞれの人生の系譜が淡々と語られていく。大袈裟な表現や不必要な形容詞は一切ない、素朴なその文章には彼らの辛い過去が詰まっている。

  自らの貧しく苦しい日々を思い出し、文章に残すことは、胸をえぐられるような痛みを伴うものだったに違いない。

  しかしこの本にはどんよりとした暗さがない。1世特有の底抜けの明るさとでも言おうか、苦しみに裏打ちされた強い強い明るさに満ちている。そんな彼らの文章を読み進むうち、3年前に亡くなった母方のハルモニの顔が幾度となく浮かんだ。

  私のハンメもそれはもう本当に明るく楽しい人だった。誰よりも大きな声で話し、笑う。好奇心が旺盛で大の旅行好きだった。

  息をひきとる瞬間までただの一度も弱音を吐いたことのないハンメだったが、その強さはハンメの過去が作り上げたものじゃないかと、本を読みながらふと感じた。

  3年前、枯れたはずの涙がまた湧き出て困った。

  涙をふきながらそっとハンメにささやく。――ハンメ、今度一緒にサンナムルを採りに行こう!―― (主婦)

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