ソクタム―ことわざ辞典

兄弟はうまくいけば宝物、そうでなければかたき


 「兄弟はうまくゆけば宝物、そうでなければかたき(=ヒョンジェヌン チャ トゥミョン ポベイゴ モットゥミョン ウォンスイダ)」

 兄弟は仲が良ければ互いに助け合い暮らしてゆけるが、仲が悪くなると他人のように知らないふりもできない代わりに、事ごとに迷惑をかけ合うようになる、という意味である。

 昔話「へらない稲たば」は、兄弟の情愛をテーマにしたものだ。

 しずかな青い山のふもと、貧しいおひゃくしょうの家に兄のチョルと弟のトルがいた。

 やがて、兄がお嫁さんを迎え、あかちゃんが生まれた。家族が力を合わせて働いたので、暮らしも少しずつ楽になっていった。

 ある日、重い病気にかかり、寝付いてしまったアボジが、2人に「おまえたち、アボジがいなくても、ずっとケンカなんかするんじゃないぞ」といった。

 2人はアボジの手をしっかりと握り、「おらたち、いつまでも仲良くするよ」と答えた。アボジは、うなずくと目をつむった。

 チョルは「アボジが残したものは、おら1人のものじゃない」といって、はたけや、たんぼなどをわけ、トルにお嫁さんをさがしてやり、新しい家もこしらえてやった。

 2人は、汗をながして、畑をたがやし、互いにてつだって田植えもすませた。天気にめぐまれて稲はすくすく育ち、秋には見事に実った。

 そんな中で、いつもチョルはトルの家を思い、トルは、チョルの家を思っていた。

 2人は相手に気付かれずに、日がとっぷりと暮れるのを待って、しょいこに稲をずっしりとせおい、そうっと相手の家の稲むらに稲を積み上げ、あしあとをしのばせて帰っていった。

 ある日、いつものように、稲たばをずしいんとしょって相手の家に向かう2人は、一本道の真ん中でばったりと出会った。「あははは……そうだったのか」「なあんだ、兄さんもそうだったの。あははは…」と、2人は抱き合い、へらない稲たばのなぞがわかったのである。

 「にいさん、おらのとこはなにも心配いらない」、「おまえこそ、よけいなことをするな」

 ケンカ一つしたことのない2人はいいあらそった。

 兄の胸には、弟のやさしい気持ちが、弟の胸には兄のやさしい気持ちが、暖かい春の雨のようにしみとおっていた。

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