このほど日本の詩人たち24人の作品が収められたリーフレット「朝鮮学校無償化除外反対−言葉を紡ぐ者は訴えます」が刊行された。そのなかから、河津聖恵さんの詩「ハッキョへの坂」、詩人・寺岡良信さんによる「編集を了えて」と題する一文を紹介する。
春の光に梢が煌めく
うれしそうに鳥たちがやってくる
鳥たちを呼ぶのは
輝く木のよろこび
光の 輝くことそのものにあるよろこび
長い冬にたえてすべてが輝きだした この朝も
あなたはハッキョへの坂をあゆんでいく
雨あがりなのか
靴はちょっと汚れたか
靴はまだ履いて間もないだろうか
桜舞う頃か
きれいにといた髪に
なつくようにまつわる花びらを
後ろから見つけたトンムは
オンニのように笑って肩を叩き
つまんで見せてくれるだろうか 一緒に見つめる花びらは
切ないほど美しいか
二人三人で腕を組み 肩を抱いて駆ければ
水色の空はふうわりと揺れ
みえないウリマルの花びらが
他人のものでもあり自分のものでもあるこの国に
ふりしきるだろうか
あなたが目を閉じれば
あなたの大好きな日本は
一面雪原のように白く
愛するウリナラへと変わっていくか
あなたが夢見るその風景を
私も見知っている気がするのはなぜか
私の中の母の そのまた母の中の母の
はるかな遺伝子が
今もそこへはらはらと流れているのか 一つの詩が終わるように
静かに坂が終わる
あなたはふと黙り 透き通り
あなたを生み出した無数のオモニたちに
よく似た横顔をひきしめる
花ふぶきの中から現れた
アボジを思わせる大きなコンクリートの体躯の
ハッキョの窓があなたをまなざすとき
グラウンドを駆け去った
無数のオッパがのこした風が
あなたに素敵な腕をのばすだろうか
風は柔らかな頬と髪を撫で
すべてのひとびとが花ふぶきのように笑いあう
未来へと包んでいくだろうか
少し遅れたあなたが
窓から見下ろすソンセンニムと目が合い
七色の微笑をこぼしやまぬとき 麓からたちのぼるざわめき
静かな高台のハッキョで
歌のようなウリマルを話すあなたを知らないまま
黄砂でかすんだ地上のグラウンドで
もうひとりのあなたは
携帯電話を片手に佇んでいた
風に肩を叩かれて
ふと透明な日本語を喋り止めふりむけば
ひらひら舞い降りながら
こぼせない涙のようになかぞらをたゆたう不思議ないちまいの花びら
もうひとりのあなたは
思わずてのひらを差し出し
花びらを受け止めまだ見ぬあなたに出会おうと
爪先立ちになる (河津聖恵)
※ハッキョ(学校)、トンム(仲間)、オンニ(姉)、ウリマル(私たちの言葉、朝鮮語のこと)、ウリナラ(私たちの国、朝鮮のこと)、オモニ(母)、アボジ(父)、オッパ(兄)、ソンセンニム(先生)
編集を了えて [朝鮮新報
2010.5.10] |