復活した伝統芸能 笑い、拍手、猿回しに大興奮 |
東京第3初級オモニ会が主催 2月5日、東京朝鮮第3初級学校(東京都板橋区)の運動場に猿回しがやってきた。主催は同校オモニ会。朴史鈴会長は、「オモニ会では毎年情操教育の一環として、子どもたちに直接還元できるイベントを企画している」と話した。今年は、同校卒業生の伝統舞踊家、「祇演さんの紹介で「猿舞座」(山口県岩国市)を招待した。
大道芸
12時50分。運動場の片隅で、ピーヒャラドンドンと笛、太鼓、鉦で呼び込みのお囃子が始まった。 「この広場にお集まりの おりこうな こどーもー、おりこうじゃない こどーもー、たーだーいまーよりー、だいどうげい さるまわしを はじめまーす」 浅草雑芸団・上島敏昭さんの口上芸に、子どもたちのワクワク感が高まった。 まずは、「さんのチャンゴの舞。笛、太鼓、唄との「朝・日コラボ」が華麗に披露された。「さんと「猿舞座」座長の村崎修二さんとの出会いは20年以上前にさかのぼる。2人は伝統芸能を通じて知り合い、今までも度々共演している。修二さんは、「日本の伝統芸能のルーツは朝鮮半島の文化と深いつながりがある」と考えている。
舞に続き広場では、若頭の村崎耕平さんが児童らに猿回しを見るにあたっての注意事項を説明した。
@食べ物や飲み物を持っている人は、今すぐ食べるか隠すことA猿は目がとても良い動物で、視力は4.0。野生の猿は熊と同じくらい力が強いので、決して前に出ないことB猿は神様の使いと言われている。これから出演する猿は、京都・嵐山の出身でプライドが高い。上手にできたときは大きな拍手を。 耕平さんが猿を迎えに行く間に、上島さんが大道芸を披露した。 開いた傘をあごや額に乗せてバランスを取り、笛を吹くと、子どもたちからは大きな拍手が送られた。皿回しがはじまり、見物人の中から1人の男児が選ばれ、回っている皿を乗せた棒を手渡された。男児の顔は緊張のあまりこわばっていたが、友だちからの大きな拍手と歓声に支えられ、皿回しは無事終了した。 大道芸を楽しんでいると、修二さんの太鼓のリズムに乗って、耕平さんと猿の夏水くん(オス)が観客の輪の中に登場した。夏水くんは耕平さんの頭に抱きついている。子どもたちから「かわいい〜」という声が上がった。あいさつの前に早速ジャングルジムに飛び乗る元気な姿に、子どもたちからは「おー!」と驚きの声が。「猿は高い所が好きだから、これは芸じゃないよ」と耕平さん。観客に、猿回しについて説明した。 長寿願う芸など多数披露 「子どもたちは大喜び」 子育ての良い勉強 猿回しの復活
「猿回しは日本の民間芸能で、今から1000年前から続いている。元々は厩猿と言って、馬の健康や安産、火災防止などを願った。150年前の明治時代になると、山口県にだけ猿回しが残った。戦争時代、猿回しは禁止になり、50年ほど前にはなくなってしまった。一旦なくなったものを今から30年前、生き残っていた猿回し芸人たちを探し出し、復活させた」(村崎耕平さん) 一般的には太郎・次郎やウォークマンのCMに出演した猿が知られている。今では400チームほどがあり、「猿舞座」はその中で「一番苦しく、一番貧乏」だという。彼らは、昔ながらの「里めぐり」という伝統的な地域まわりのスタイルと、「本仕込」(猿を無理に調教するのではなく、仲間的関係になって芸を行わせる手法)にこだわる唯一の旅芸人集団なのだ。
テレビに出たり、大きな劇場を立てて稼ぐ猿たちは、絶対に失敗は許されない。言うことを聞かないと、人間は猿を叩き、噛み、電気のむちで打つこともある。だから猿たちは、人前に立つと気をつけの姿勢で立ち、芸をする。この日、東京第3を訪れた夏水君は、叩かない、噛み付かないで、仲良く芸を教えてきた。耕平さんが芸を教えて2年になる。
輪の中心に座り、あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロしている夏水君。そのうち手を伸ばし、足を伸ばして毛づくろいをはじめた。耕平さんはその姿を横目に見つつ、道具を準備し、緑色の四角い小さなイスを出した。すると、夏水君はイスをポイッと放り投げた。 「やりたくないんだって」と耕平さん。 運動場にある登り棒に夏水君を登らせて、人間と猿の違いを説明する。 「人の足には踵があって、2本足でしっかり歩けるけど、猿の足には踵がない。物がつかめるようにできていて、手が4本あるのと同じ。だからこんなに上手に早く高いところに登れるんだ」 そして、夏水君と「歩く練習」を披露。両手を持って2足歩行をする。 「イッチ、ニイ、サン、シイ」 技の連発
夏水君は小さな子どもと同じで、ジッとしているのが大の苦手。先ほどのイスをまた取り出すと、耕平さんに抗議して逃げようとしたり、噛み付いたり。それでも耕平さんは夏水君を叱らず、受け止めている。すると、落ち着いたのか、イスに腰掛けた夏水君。子どもたちからは大きな拍手が送られた。 「この小さなイスに座るだけで1年もかかるんだ。夏水のように叩かれず、自分から芸をする猿を『花猿』と呼ぶ。花のようにかわいくて、美しい猿と言う意味だよ。それから、嫌がらずに服を着るようになるまで3カ月、その間30着くらいは服を破っている」 耕平さんが赤白模様の輪を取り出し、「みんなが病気や怪我をしないように厄払いをするよ。猿は人間に幸せを運ぶ神の使い!」と言いながらポンと輪を持ち上げると、夏水くんはピョン! とその中を跳び抜けた。
次は2本の輪。両手で輪を並べて持ち、夏水君が2本の輪を続けて跳び抜けると、「鶯の谷渡り。昔はおじいちゃん、おばあちゃんの長生きを願う芸だったんだよ」と説明した。続いてさらに輪の位置を上下に高くして、「鯉の滝登り。さっきの3倍は難しいよ」。そして、日本では「彼しかできない、弁慶と牛若丸」…。
夏水君は絶好調。次々と技を披露して大きな拍手をもらうと、耕平さんは夏水君を抱きしめ、撫で回した。 「これが昔ながらの猿回しです。叩いてないから、奉納猿回しとも言います」と言った。 最後を飾ったのは大技の「風回し」だ。夏水君の両手を持ってクルクル回る。高低差をつけて上下にクルクル…。大成功! 通常なら最後に投げ銭をもらって、終わるのだが、この日は学校と言うこともあり、オモニ会会長からバナナのご褒美をもらうことに。出演者も観客も、みんな大満足の様子だった。 終了後、オモニ会の朴史鈴会長は、「猿回しを初めて見てとても楽しかった。朝鮮の芸術と日本の芸術が深いところで結びついているということ、そして、日本で在日芸術家と日本の伝統芸能者たちが触れ合い、朝鮮学校の子どもたちを喜ばしてくれたことに感動している。猿を叩かず芸を仕込む姿勢は、子育ての良い勉強にもなった。子どもたちの記憶に深く刻まれると思う」と感想を述べた。(文−金潤順記者、写真−盧琴順記者) [朝鮮新報 2009.2.27] |