「報道」が「バッシング」に−新潟で「拉致報道」シンポ |
15日、新潟市内で同地域のメディア労組が主催したシンポジウム「検証・北朝鮮拉致報道」。朝鮮バッシングがどこにも増して激しい新潟でのシンポジウムでは、そうした現状に警鐘を鳴らすとともに、拉致を含む朝鮮問題全般の報道を問い直すうえでの問題点が話し合われた。(李松鶴記者) 早道は国交正常化
「拉致問題を解決しなければいけないという立場ではあるが、『救う会』のような過激な主張には同意しかねる」 基調報告をした新潟県在日朝鮮人帰国協力会事務局長の風間作一郎氏は開口一番このように述べながら、その理由としてやがて迎えるだろう朝・日国交正常化の時のことを考えるべきだと指摘した。 さらに最近の拉致被害者に関する報道に関して、「『救う会』の事務局長なる人が前面に出てくるようになって、被害者の方々の具体的な状況や気持ちがわからなくなった」「被害者の方々が『救う会』の人質になっていると言っても過言ではない」と強調した。 また、一連の朝鮮バッシングにより在日朝鮮人が「地獄を見ている」と述べ、「『万景峰92』号を入港させないという動きは正しくない。今になって急に検査を厳しくするというのは通じない」と批判した。 そして、拉致や「万景峰92」号などの朝鮮問題は、日本の植民地支配や強制連行など日本の過去の清算と切り離して考えられるものではないと指摘しながら、すべての問題解決のための一番の早道は、国交正常化であると締めくくった。 同じく基調報告を行った北村順生新潟大学助教授は、拉致報道とナショナリズムが相乗効果をなしながらエスカレートしていると指摘。ニュースソース側の情報管理を無批判的に受け入れることによる危険性をマスコミは認識すべきだと述べた。 また、こうした状況下で朝鮮を擁護したり、敵視しないという声や意見などマイノリティーの声が出にくくなりつつあると警鐘を鳴らしながら、「北朝鮮というと拉致や不審船などいかがわしい国だというイメージが植え付けられている。マスコミには朝鮮をもっと細かく見て報道する姿勢が求められている」と強調した。 また、新聞離れ、テレビ離れが進む中、「受け手への迎合」というメディア側の姿勢が問われていると指摘。@独自取材による独自のニュース、独自の視点による独自の解釈A報道内容の事後検証、メディア間の相互検証、客観的あるいは第三者による検証B取材のプロセス自体の公表―などが求められていると強調した。 現場で記者として拉致問題に関わってきた新潟日報柏崎支局の本多茜記者も報告を行い、拉致被害者に対する取材スタイルを疑問視しながら、「報道陣」対「拉致被害者」ではなく、「一人の記者」として向かい合いたいと心情を訴えた。 歴史踏まえた報道を 2部のパネルディスカッションでは、地元メディアの記者たちがパネラーとなり、拉致報道の問題点について話し合われた。 「集団で行うという拉致報道の取材システムは、『どうせ誰かがやってくれるだろう』というメディア怠慢の危険性をはらんでいる」「取材対象が限定されているため、特オチ(特ダネ報道を逃すこと)を避けるために『おかしい』という問題提起ができなくなっている」「東京のメディアは、拉致報道から徐々に北朝鮮バッシングになっている」「多様な意見を反映することに臆病になっている」など、現場の記者たちが日々感じているさまざまな疑問点が浮き彫りにされた。 質疑応答では、会場から「拉致問題を歴史的、本質的に捉える姿勢が必要なのでは」「拉致問題をどのようなスタンスから扱っているのか」などの質問があり、パネラーたちは歴史的経緯を踏まえた拉致報道に力を注いではいるものの、それが紙面や番組に反映されにくい実情を明らかにしながら、改善に向け努力していきたいと語った。 シンポを終えて鶴間尚新潟日報労組委員長は、「歴史を踏まえた北朝鮮問題報道の重要性を認識できたことに意義がある。今後も新潟のさまざまなメディアが集まり議論を進めていきたい」と語った。 [朝鮮新報 2003.6.20] |