日本政府を名指しで批判−国連人権委員会報告〈上〉 |
3月17日から4月25日にかけて、スイス・ジュネーヴで国連人権委員会が開催された。今回の人権委員会でもっとも注目を集めたのは、94年から「女性に対する暴力」に関する特別報告官として活動してきたスリランカのラディカ・クマラスワミ女史が、その研究と活動を総括した最終報告書を提出したことである。その内容と日本政府の対応について、非政府組織(NGO)代表として参加した経験をもとに3回にわたって報告したい。(宋恵淑、在日本朝鮮人人権協会事務局)
クマラスワミ女史の最終報告書は「女性の人権とジェンダーの観点の統一・女性に対する暴力」と題されたもので、付属文書「1」、「2」とともに今回の人権委員会に提出された。 本報告書で特別報告官は、家庭内暴力やセクシュアル・ハラスメント、紛争時の性暴力など「女性に対する暴力」に関する幅広い問題を取り上げ、最近10年間で女性への暴力が人権問題として国際社会に認知されるようになったことを評価しながら、この問題に対する各国のより積極的な取り組みを要請している。 注目すべき点は、武力紛争時の性暴力に関する項目で、国際刑事裁判所の設置など国際法体系の整備に一定の前進があったとの指摘がなされた一方、従来の国際認識や法体系が不十分だった点を説明する中で、戦時下の強姦は、戦争犯罪や人道に対する罪に該当しないと従来主張してきた各国の代表として、日本政府が名指しで批判されていることである。 過去の活動を総括した包括的な報告書という性質上、抽象度が高く、特定国政府を名指ししての批判は極力避けられている。それにもかかわらず、極めて異例に報告官が日本政府を批判したことが意味するものは何であろうか。 クマラスワミ女史は報告官就任以来、「日本軍慰安婦」問題に強い関心を寄せ、95年に南朝鮮や日本を訪問、翌年1月に報告書と日本政府への勧告を発表した。 それらで彼女は、「慰安婦」を「軍事性奴隷」と断定、日本政府が国家として国際人道法上「慰安婦」被害者個人に対し、法的および道義的責任があると明言しながら、「アジア女性基金」は、法的責任を放棄した結果作られたものだとし、問題の解決にはならないと指摘した。 そのうえで日本政府に対し、「従軍慰安婦」犯罪の法的責任を認め、その被害者に対する政府による公式謝罪と国家賠償、ならびに加害者の処罰、この問題に関する政府所有のすべての文書および資料の開示、そして教育内容を歴史的現実が反映されたものに改めることによって、この問題についての意識を高めるよう勧告した。 日本政府は一貫して「法的責任はサンフランシスコ条約や日韓条約で解決ずみ」との立場を取り、クマラスワミ報告書を拒絶してきたが、特別報告官は2001年4月にも人権委員会に提出した報告書の中で勧告を履行しない日本政府を再び批判した。 一連のクマラスワミ報告書は採択直後から、国際法学者、人権専門委員、特別報告官、政府代表、ILOをはじめとする国連機関そしてNGOが歓迎し、日本政府に対し、その即時履行を繰り返し求めてきた。勧告に法的拘束力はないものの、日本政府は国連加盟国として、この勧告と真摯に向き合い、報告書にあるように被害者が納得する形で国家責任を取る義務を有する。 20万人にも及ぶとされるアジアやヨーロッパの女性が犠牲となった日本軍性奴隷制の問題は現在、国際的関心事である。「従軍慰安婦」はJugun Ianfu≠ニして、もはや「国連公用語」となったと言っても過言ではない。 女性に対する重大かつ組織的な国家犯罪の典型として知られるに至ったこの問題に、日本政府が国家として取り組み、解決に向け努力していくことは、今も世界中で続く女性に対する性暴力の根絶に貢献する最良の機会だということに加え、日本がアジア諸国とその人民と真の和解を達成していくための最後の機会ではなかろうか。 最終報告書はその意味で、クマラスワミ女史による日本政府に対する重大な「最後通牒」だったといえる。しかし日本政府は、クマラスワミ最終報告書をこれまでどおり、かたくなに拒んだのであった。 (関連記事) 日本の道義、法的責任追及−「従軍慰安婦」問題で各国政府、NGO [朝鮮新報 2003.5.16] |