「非正常」に終止符を打つ決断
朝・日平壌宣言
初の朝・日首脳会談がこれまでの外交交渉の枠を越え大きな成果をもたらしたのは、両首脳が2国間の問題だけでなく東アジア全体の国際関係に目を向けたからである。
平壌宣言の冒頭には両国の関係正常化が「双方の基本利益に合致し地域の平和と安定に大きく寄与する」と明記されている。今回の首脳会談の意味がここに示されている。 東アジアの地図を見れば歴史の課題は広範囲にわたっている。1945年、朝鮮は日本の植民地支配から解放されたが、その後、冷戦が始まった。朝鮮は南北に分断され、北と米国の敵対関係による軍事的緊張が地域を支配した。朝鮮と日本との間では過去の清算問題が未解決のまま「近くて遠い国」の関係が定着してしまった。 世紀を超えて今、東アジアに残る「非正常な関係」の解体作業が始まろうとしている。踏み外してしまった過去を清算する、過った歴史の再構築である。 本来のあるべき姿。朝鮮にとってそれは分断された民族が1つになることであり、地域にとっては特定の国の支配と干渉を排した国際関係を作り上げることであろう。 平壌宣言は、そのような新たな歴史を創造しようとする政治的意志の産物として評価されるべきだ。 「百年の宿敵」の関係にあった朝鮮と日本が隣国として当然あるべき協調関係を目指す。そのために「非正常な関係」の中で生じた問題に決着をつける。まさしく歴史に一線を画す決断が下されたのである。 日本のメディアは、朝鮮側の決断を「国内経済の悪化」「ブッシュ政権の強硬策」と結び付けて論じているが短絡的な発想だ。朝鮮が変革の時代のイニシアチブを握るため積極的に動く兆しは、すでにあった。 「2000年代には、すべての問題を新たな観点からアプローチし、解決しなければならない」。金正日総書記の指摘である。最近の情勢変化は総書記の「新たな観点」が朝鮮の内外政策に具現されていることを実証している。 北南関係では6.15共同宣言精神に基づき対話と交流が活発化している。対米関係では対話の用意があることを一貫して表明している。国内では「社会主義の原則を守りつつ最大の実利を追求する」経済管理の改善作業が進んでいる。 これらは1つに連なる動きとして見ることができる。変革の時代に向けて踏み込んだのである。反目と対決ではなく相互理解と協調の原則に立った国際関係を前提に、朝鮮は21世紀に相応しい新たな社会主義のモデルを確立しようとしている。 そのためには既存の観念にとらわれてはならない。過去にしがみつくのではなく、清算すべきものは清算しなければならない。 隣国である日本との関係においても同様である。朝鮮側は小泉総理の訪問を機に拉致事件被害者の安否情報を日本側に伝えた。 非正常な関係を背景に特殊機関の一部が起こした事件だとしても痛ましい出来事である。 忌わしい過去であっても、朝鮮と日本が隣国としての協調関係を築こうとするのなら直視しなければならない問題である。ごまかしは現状維持しかもたらさない。非正常の関係があったため犯した過去の過ちを正すことこそ、未来に向けて正常な関係を作り上げる道程なのである。 変革の時代を迎える朝鮮の意気込みは本物である。関係諸国が積極的に応えるならば、東アジアの枠組みは大きく変わるだろう。 日本も機会を逃すことなく、迅速に行動することが求められている。平壌宣言の精神に基づく植民地支配の歴史の清算。日本が自らの20世紀を総括し21世紀のあるべき国の姿を確立しようとするうえで避けて通ることのできないプロセスである。 |