性奴隷問題国連提起から10年

問われるNGO活動

第54回人権小委員会に参加して 宋恵淑


 7月29日から8月16日までスイス・ジュネーブで開かれた第54会期国連人権委員会人権小委員会にNGO代表として参加、日本軍性奴隷問題の解決に取り組んだ宋恵淑さん(26、英国在住、在日本朝鮮人人権協会会員)が現地から寄せた投稿を紹介する。

数々の決議、今回も

 1992年、「従軍慰安婦」問題がはじめて国連に提起されて以来10年間、人権小委では旧日本軍による戦時性暴力に関する問題の解決に向けてさまざまな議論とあくなき努力が続けられてきた。

 94年、人権小委に「内戦を含む戦時における組織的強姦、性奴隷制及び奴隷類似行為」に関する特別報告官制度が設けられ、任命されたチャベス報告官は96年、旧日本軍による「慰安婦」制度を戦時における性犯罪の典型のひとつとして報告した。後任のマクドゥーガル報告官は98年に提出した報告書において、「従軍慰安婦」犯罪の厳重性と加害者の法的責任を明白に立証しながら、日本政府に対し公式謝罪、公式補償、加害者の処罰などを勧告している。また人権小委では数年来、「組織的強姦、性奴隷制及び奴隷類似行為」に関する決議案が全会一致で採択されている。しかし日本政府はこれら勧告や決議に積極的に応じていない。それどころか、日本政府とその関係者はその責任を回避するべくあの手この手を講じてきた。今年も例外ではなかった。

ある委員の抗議

 14日の会議において採択された上記と同名の決議案は昨年同様、武力紛争中に行われた性暴力に対する不処罰の反復を終結させるため、国家による効果的な刑事的処罰と補償の必要性を再確認するとともに、そのような性暴力の再発予防のため「歴史的事件の説明の正確さを確実にし」、人権教育を推進するよう求めている。決議草案には教科書の記述に関する文言があったが、それは最終的に削除された。

 この決議案採択を受け、8月15日の日本の有力日刊紙はこぞって「従軍慰安婦問題を含む性奴隷制に関する決議採択」などの見出しで決議に関する記事を掲載した。

 これに対し日本の専門委員は16日の人権小委にて、日本の一部報道に誤りがあったとする抗議発言をした。

 その委員によると、人権小委で採択された決議は特定国家に対する決議ではないので、日本の各紙が「戦時性的奴隷」に関する決議をあたかも「従軍慰安婦」決議のように報道し読者を誤解させているように、この決議が「特定国家」のものと解釈されたり、理解されたりしてはならないとのことである。

 たしかに人権小委は上部機関である人権委員会の決定により、3年前から特定国家に対する決議を採択できなくなった。従って日本の専門委員が言うように、すべての決議は「テロリズムと人権」「少数者の権利」といった個別の人権問題に関する決議であって、特定国家に対するものではない。

 しかし、人権小委で戦時における性暴力の問題が議論されるようになった経緯をみれば、この決議が「慰安婦」問題を念頭に置いているということは明らかである。また朝鮮民主主義人民共和国の国連代表部代表が日本の専門委員の発言に対し反ばく権を行使して述べたように、旧日本軍によるアジアの少女や女性に対する組織的性暴力が長年人権小委で扱われてきた戦時性奴隷制の中でも「最も深刻な事例であるということは既に広く知れ渡っていること」である。さらに近年、この問題において歴史教科書の記述で問題があったのは日本の軍隊慰安婦制度のみである。このような点を鑑みた時、日本の新聞記事に誤りがあったとは言い難い。

一人よがりな「解釈」

 そもそもこの日本の専門委員は、昨年の人権小委でも同名の決議に関する討議で、決議に日本と特定されていないのに自ら「慰安婦」問題と「女性のためのアジア平和国民基金(民間基金)」の活動を取り上げ、何億の金が集まり、何人の女性がいくら受け取ったという話をし、他の委員たちから「お金の問題ではない、人間の尊厳に関する問題だ」「日本もドイツのような補償ができるのでは」と反論を受けている。

 「民間基金」は今年5月の事業「終了」まで日本政府が「慰安婦」問題に関して問われた時必ず言及していた、彼らが言うところの「解決策」であった。「決議に日本と特定して書かれていない」というのも、委員として参加している人権委員会で日本政府が繰り返している、彼らの「解釈」である。日本の専門委員による「民間基金」の活動紹介と、「特定国家」に対するものでないという抗議。人権小委は政府の立場から離れた独立専門委員によって構成されているはずなのだが。

「日本に特定してない」

 戦後、日本政府は「慰安婦」問題に関して何もしてこなかった。この問題が国際的な注目を浴び始めると「民間基金」なるものを掲げてきたが、国家責任を回避するために作られ、民間からの寄付金により運営されたこの基金は、被害者からも、社会権規約委員会などの国際人権機関からも拒絶され、失敗の内にその事業を終えた。

 東京裁判で裁かれなかった旧日本軍による戦時性暴力の問題を追及するため2000年、市民の手によって開催された「国際女性戦犯法廷」も、日本以外の国々での関心とは裏腹に、当事国の日本では多く取り上げられなかった。人権小委の度重なる決議も、自らの過去の犯罪に十分関連しているにもかかわらず「日本と特定していない」として無視しつづけている。まるで高齢の被害者たちが亡くなるのを待つかのように。

被害者の尊厳回復を

 「慰安婦」制度の被害者たちは、孤独と悲しみ、怒りと恨で埋め尽くされた半世紀以上もの長い年月、彼女たちの名誉と尊厳がいつか回復されるものと信じてたたかってきた。その闘いは、近年ルワンダや旧ユーゴスラビアで類似犯罪の被害にあった女性たちに勇気を与え、戦時性暴力犯罪における不処罰状態に終止符を打つための大きな運動へと発展していった。

 しかしハルモニたちは加害国による真摯な償いの欠如により、その筆舌しがたい悲惨な過去による心身の傷を拭う術を知らず、今もトラウマや病苦にさい悩まされている。被害者たちが残りの人生を平和に過ごせるようにすること、また彼女たちが強いられた戦争と性暴力という恐ろしい出来事が、現在および未来の少女、女性たちに起こらないという展望を、被害者たちがそして私たち自身が抱けるようにすることは、私たちに与えられた課題だと思う。

 南朝鮮のあるNGOによると、「従軍慰安婦」の被害者であると名乗り出ているハルモニたちのうち、今年に入ってすでに7人が亡くなったという。残された時間は少ない。「従軍慰安婦」問題の最終的な解決のため、さらなる努力が求められている。

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