閑話休題
「大同江沿いに5軒の店を」
「平壌冷麺」にかけた生涯
17日、小泉首相が平壌を訪れる。
直行便で2時間ほどの近さ。しかし、国交がないため、人々の実感としての両国の距離は遥かに遠い。 今年6月18日、92歳で永眠した神戸の平壌冷麺屋の名物オーナー・全永淑さんの故郷も平壌。19歳で渡日して以来、ついに故郷の土を再び踏むことはなかった。 昨年の10月、取材で会った時、「生家は金日成広場の辺りにあった」と懐かしそうに話してくれた。あれから8カ月後、老衰で眠るように静かに息を引き取った。長男と次男は他界して久しいが、心優しいお嫁さんたちと実の親子以上に睦まじく暮らした。 同居して、最期を看取った次男のつれあい文春子さんは「(オモニは)好きな仕事を納得するまでやって、幸せな一生だった」と振り返る。 記者が訪ねた時も台所に立って、ムルキムチの大根を刻み、白菜を切っていた。「誰かが代わってやると、機嫌が悪くなってダメなんです」と文さんが言っていた。 ハルモニの夢は息子5人に1人ずつ、生まれ故郷の平壌で店を持たせることだった。その夢は神戸でかなえた。店のマッチには、大同江沿いに建つ5軒の店が描かれている。亡きハルモニの一瞬たりとも脳裏を離れなかった望郷の心がそこに詰まっている。 ハルモニは本当の冷麺の食べ方をこう教えてくれた。「平壌の冬は寒いが、家の中はオンドルでとても暖かい。冬の寒い時に、暖かい部屋で冷たい冷麺を食べるのが、何といってもいちばん、おいしいねぇ」と。 さて、小泉首相にも平壌冷麺をぜひ食べてほしいのだが…。(粉) |