苦しむ人々に寄り添って生きた潔い軌跡

岡部伊都子さんの年代記「婦人画報」が特集


 1人の女性として、日本の侵略戦争の原罪を背負い、そこから決して目を背けず50年あまり執筆し、発言し続けてきた文筆家・岡部伊都子さんは今年80歳を迎えた。「婦人画報」9月号は、平和を愛する人々の間に圧倒的な支持者を持つ岡部さんの年代記(クロニクル)を16ページにわたって特集している。

 岡部さんは当代の名筆家。1954年以来、執筆生活に入った。暮らし、美術、伝統、自然などを、日々を生き、暮らす中から綴り、また、戦争、沖縄、差別、環境などに鋭い問題意識を持ち、執筆や講演を通じ発言を続けてきた。朝鮮の統一や在日朝鮮人の権利問題にも心を寄せ、さまざまな支援を惜しまない人でもある。現在著書は110余冊を数える。

 岡部さんの書くことの原点は戦争の犠牲者となった兄とそれに続く婚約者の「死」だった。出兵の直前、初めて2人きりになった部屋で婚約者は岡部さんにこう言った。「自分はこの戦争は間違いだと思っている。天皇陛下のおん為になんか、死ぬのはいやだ」。幼い時から結核で全身虚弱、うしろめたさを抱えていた岡部さんは、その彼の言葉を理解できず、「私なら喜んで死ぬけれども」と冷たく答え、戦地へと送り出した。

 敗戦後、このことにずうっと苦しみ続ける。婚約者を死なせたのは自分であると。そして、戦争を否定していた彼が死に、ぬけぬけと生きている自分を厳しく見つめ、深く厳しい思索の道を歩むことになった。そして書き続けた。社会の矛盾、性差別、貧困と戦争への弾劾を、そして自身の罪と加害についても、追及の筆を決して緩めなかった。

 「婦人画報」の特集は「人間社会への鋭い批判から母の握ったおむすびの味までを、控えめに静かに、でも強い信念で社会に訴えてきた人生」を鮮やかに浮き彫りにして、感動的。

 朝鮮についての記述で特に印象深いのは「高麗青磁や李朝白磁などには垂涎の好事家が、現実の朝鮮人を蔑視迫害している例がある。日本人が朝鮮人自身よりも深い愛着を持ちつつも、その作品にこもる朝鮮の魂や力や美意識を見ようとしない。それが侵略者であり差別である」との言葉。

 沖縄、アイヌ、被差別部落…など、他の人々ができるだけ避けてきた問題に真正面から格闘し、そこで苦しむ人々に寄り添って生きて来た岡部さんの生きた軌跡は何と潔く、美しいことか。ぜひ、一読を勧めたい。(朴日粉記者)

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