人権協会連続セミナー「福祉を考える」

現場の課題投げかける

ハンセン病元患者の李衛氏が講演


 在日本朝鮮人人権協会の第2回連続セミナー「福祉を考える」が12日、東京・池袋のエポック10で行われた。国民年金制度から排除されている外国人高齢者・障害者ら同胞社会における弱者の苦しみ、実態を知り、支援の輪を広げようと開かれたもので、同胞、日本市民ら100人が参加した。セミナーではハンセン病元患者の李衛氏(多磨全生園)の講演が行われた後、障害者向けの音楽教室、1世同胞の介護に取り組む現場から報告が行われた。

なぜ裁判闘争だったか

「戦争はファシズムの再来」。日本の軍事大国化に危機感をつのらせる李衛氏

 李氏は「闘う生、幸なり」と題して話をした。日本政府は誤解と偏見に基づく「らい予防法」を施行し、ハンセン病元患者を90年以上も強制隔離してきたが、李氏も16歳の発病以来、療養所生活を続けている。

 療養所内の同胞患者をつなぐ「在日韓国・朝鮮人ハンセン病患者同盟」委員長を歴任するなど、「らい予防法」に徹底して反対してきた。強制隔離に反対した友人が監房に押し込まれ命を落とした事実や強制労働が公然で行われ、70年代初頭まで朝鮮人患者に福祉年金が支給されなかったことなど、「人間の精神構造を変えた」(李氏)「らい予防法」の非人間性について語った。

 ハンセン病違憲国家賠償訴訟全国原告団協議会事務局長として、日本政府の謝罪と補償を勝ち取った裁判闘争についても振り返り、「貧困の極みにあった朝鮮でのハンセン病の発生率は日本の10倍。植民地支配がなければ患者も発生しなかった。在日同胞に対する差別の根源を問うため裁判を決断した」。

 また、「控訴すればこれまで続いた人権侵害のうえにさらに侵害を重ねることになる。控訴するべきではないと言った」と、熊本地裁で勝訴判決が出た後、小泉首相と面談した時の心境も吐露した。

 最後に李氏は、昨年9月の米国における同時多発テロ事件以降、日本政府が米国のアフガニスタン空爆に手を貸したことに触れ、「らい予防法の根源はファシズム。その再来を感じている。国家的な差別を許してはならない」と参加者に強く呼びかけた。

急務は専門家育成

同胞福祉を充実させようと開かれたセミナー

 リレートーク「どうあるべき? 在日の福祉」では在日同胞福祉連絡会メンバーで障害者向けの音楽教室に関わっている朝鮮大学校大学院生の成基香さん、同胞高齢者向け介護サービスに携わっている川崎高麗長寿会の徐子連事務局長、視覚障害者の梁進成さんが発言した。

 成さんは、4月から月1回教室を開催する過程で障害者と支援者のネットワークを構築できたと報告。児童から30代の障害者までが参加しているが、とくに民族教育を受けられなかった成人が同胞との出会いの場を渇望していると語った。

 しかし、把握している同胞障害者は「ムジゲ会」会員の枠を越えられていないと、今後の課題として挙げた。

 また、同胞高齢者の介護に携わっている徐さんは、「無年金状態に置かれている1世の苦しみを自分の苦しみとして受け止めて欲しい」と訴えながら、地方自治体が無年金者に支給している給付金の増額を求める運動を一斉に推し進めようと提案した。

 全盲の梁さんは、朝鮮学校に通えなかったくやしさについて述べ、「経済的な余裕がなかったことも原因にあっただろうが、障害者に対する偏見や差別もあったと思う。障害者が通える環境を整えて欲しい」と強調した。

 同胞福祉を担う専門家の育成、ボランティアの質を高める問題についても発言が続き、福祉住環境コーディネーター資格講座を開講、合格者を輩出した在日同胞福祉連絡会の実践も報告された。

 9月6日に行われる3回目のセミナーのテーマは「社会的差別」。シンヘボン青山学院大学教員、一緒企画のトニー・ラズロ氏、殷勇基弁護士がパネラーを務める。問い合わせ=人権協会(TEL 03・5818・5424)

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