月間平壌レポート  2002.6

「もっと大きなハナ(ひとつ)」への期待

「6.15」2周年とサッカーW杯


 【平壌発=金志永記者】 大マスゲーム・芸術公演「アリラン」の対外公演を機に、平壌の人々はより広い世界に目を向けるようになった。「オソオセヨ(いらっしゃい)」。外国人観光客でにぎわうホテルやレストラン、市内の観光スポットに明るい声が響く。とくに、平壌の人々にとって6月は「KOREAの国際的威信」を想起させる月でもある。あの「世紀の握手」と6.15共同宣言発表から2年。世界の人々の目に「今日のKOREA」はどのように映っているだろうか。「北では『アリラン』の感動と興奮、南ではサッカーワールドカップでの快進撃。英知に富み、才能豊かな民族の姿を再確認した」。6.15共同宣言発表2周年記念行事に参加した北のある作家は「わが民族が自らの力を信じて前進すれば、必ずや分断を克服できる」と語った。

同族の勝利に歓喜

 平壌でも連日、ワールドカップの試合が放映されている。開会式の翌日、フランス対セネガルの開幕試合が1日遅れで放映されて以来、巷の話題はサッカーが独占している。

 「世界トップレベルの試合を観ることで、わが国のサッカー界を活性化させる世論が高まればよい」

 市民の一般的な反応である。「強盛大国建設」のスローガンを掲げ、経済や科学技術などの分野で世界的レベルを目指す人々の意気込みは、スポーツの分野でも例外ではない。

 ましてサッカーは、依然として老若男女を熱狂させる「国民的スポーツ」だ。先月、平壌でアジア青少年サッカー選手権大会予選が行われた際にも、「ホームでの敗退は絶対許されない」と、声を張り上げ、自国のチームを叱咤激励する観客でスタンドは埋め尽くされた。

 思想と制度は違っても北と南は1つの民族。必勝を祈念する感情は、ワールドカップで善戦を続けた南朝鮮のチームに対しても同じだ。

 南朝鮮がスペインを破って「4強」進出を果たした翌日の23日、朝鮮中央テレビは午前中に日本対トルコ戦、夜10時からは南朝鮮対イタリア戦を放映。アナウンサーは日本の敗退、南の勝利を伝えた。

 「同族、同胞のチームが勝ち進んだことを喜ぶのは当然」。テレビで試合を観戦した人々は素直に感情を表現した。同時に「1966年の勝利」に思いを馳せた。南の対戦試合が放映された夜、テレビでは第8回ワールドカップで「8強」進出を果たした北のチームの活躍と、選手たちの現在の姿を紹介するプログラムが組まれていた。

 「わが民族のサッカーは世界一流。1つになればさらに強くなる」。人々の思いに南北の境界などない。

 4年前の大会の時には、このような声は聞けなかったかもしれない。2002年、平壌で観たワールドカップには、6.15共同宣言発表後の北の民心が確かに表れていた。

岐路に立つ共同宣言

 6.15共同宣言発表2周年を迎え、民間レベルではさまざまな記念行事が行われたが、政府間レベルでは対話中断の状態が続いた。北南関係凍結の原因は、南の対米追従路線にある。民族和解の推進より、対北強硬策をとる米国との「協調」を重視する南の姿勢に、北は強く反発した。

 北と南、海外の民間団体共催による民族統一大祝典(14、15日、金剛山)には、平壌からも各界人士が参加した。北のある映画俳優は「南や海外の人々と統一問題について虚心坦懐に話し合えるまたとない機会。しっかりと心の準備をしてきた」と語った。

 米国の干渉と圧力、南内部の右翼勢力の妨害によって6.15共同宣言が履行されず、今後の情勢変化の中で北南間の合意が白紙化してしまうことへの危ぐを、彼らは感じていた。

 「われわれは6.15共同宣言を守り通すことができるかどうかの瀬戸際に立っている」。民族統一大祝典の会場で、そんな指摘を何度も耳にした。

 「情勢を悲観するわけではないが、もしも6.15共同宣言に反対する人物が権力を握ることになれば、北と南の関係が対決の時代に逆戻りするかもしれない。それだけは阻止しなければならない」。北の映画俳優は、南の政治情勢に対する憂慮を示した。「南の民衆がワールドカップの熱狂に流されることなく、統一という重大な民族問題により大きな関心を寄せる」ことへの期待を表明した。

「世界の中のKOREA」

 北では人々がワールドカップの試合をテレビで観たが、南では「アリラン」の観覧が許されていない。

 7月中旬まで公演延長が決まった「アリラン」には、北の人々の歴史観と生活感情が集約されている。「公演を観れば北のことをもっと深く理解できるのに」。記者がインタビューした出演者の1人は、世界各国から観光客が訪れるのに、南の同胞にはそれが許されていない「不条理」を訴えた。

 「すべての違いを超えて1つになる。2年前、私たちは世界の面前で確約したではないですか」

 「ウリヌン ハナ(私たちは一つ)」。今、平壌でこの歌を聞かない日はない。「アリラン」公演で印象的に使われ、金剛山の行事でも参加者たちが合唱した「統一の歌」には、こんなフレーズがある。

 「二つ合わせれば、もっと大きなハナ」

 サッカーワールドカップを観た時もそうだった。「世界の中のKOREA」。平壌市民の心の中で、それはつねに「ハナ」の音色を響かせている。

日本語版TOPページ