「生きて、愛して、闘って」に寄せて〈下〉
男女平等は統一朝鮮の基盤
山田昭次
前掲の「韓国女性史」には農村の女性は「日帝と地主の収奪により家長としての責任をはたせない不満と苦痛から逃れようとする男性に殴られるなどの虐待を受けることもあった」と記されている(93頁)。在日朝鮮人1世の家庭でも夫がよく妻を殴ったという話をその子である2世たちから私もしばしば聞いた。これは男性が日本社会の厳しい民族差別とそれに起因する貧困から生じたやり場のない苦痛の捌け口を妻に向けた結果だろう。日本の支配下で朝鮮人男子が受けた民族的苦痛までも性的差別を媒介として背負う朝鮮人女性もいたのである。
民族的加害者である日本人の私にとって極めて口に出しにくい朝鮮民族内部の矛盾である女性差別に敢えてここに触れるのは、本文にも指摘されているように、朝鮮人女性が何重もの差別を受けてきたからこそ、その痛みが逆転されてそれからの解放に向かうエネルギーに変えられていると考えるからである。鄭出水は女性を人間扱いしない古い思想をなくさねば、という思いから、7人の子全員に民族教育を受けさせた。「物語」に登場する12名の女性が在日本朝鮮民主女性同盟の県委員長、支部委員長、分会長などの経歴を持っているのも彼女たちの右のような共通な想いの反映であろう。 実業界で苦闘して成功した女性の場合もこの想いに変わりない。また、鄭末順や趙善孝は朝鮮総聯の活動家である夫の収入をあてにせずに一家を支えた。 「物語」は無名の在日朝鮮人女性の目から見た総聯史になっている。とかく一般に運動史というと、組織の最高指導者の方針とか、組織の綱領のみの説明に終わりがちだが、それを支えた無名の人々、とくに女性の姿を明らかにすることは大切なことだ。「物語」に登場する2人の男性が、朝鮮人県商工会会長や総聯県本部委員長として活動できたのも、こうした女性に支えられたにちがいない。 在日朝鮮人女性たちの努力によって大きな前進はあったが、課題がすべて達成されたわけではない。姜福心は「わが民族の立ち遅れている部分は、男尊女卑の風潮が根強いということだ」といって、家や国の発展のためにもこの風潮の克服を若い世代に訴えている。 彼女たちが願う統一とは、南北の地域の統一だけを意味するのではない。男女の平等を達成した統一国家を願っているのである。「従軍慰安婦」だった女性たちも半世紀強いられた沈黙を破って戦後補償訴訟を開始し、民族差別と性的差別からの名誉回復を求めている。韓国の女性問題研究者李効再も、男女の「平等を追求する今日の私たちの努力は、統一社会の基盤となるべきものであり、現在と未来は直結している」という(李順愛、他訳「分断時代の韓国女性運動」御茶の水書房、87年、25頁)。こうした南北朝鮮や在外の朝鮮人女性の希望を実現する統一が達成されることを祈る。(立教大学名誉教授) |