日本の過去清算求める平壌シンポ報告から


 「日本の過去の清算を求める平壌国際シンポジウム」では1日の全体会議で6人、2日目の第1分科会(日本軍性奴隷犯罪)で10人、第2分科会(日本による強制連行・強制労働犯罪)で11人、第3分科会(日本の歴史わい曲・右傾化・軍事化)で9人が報告した。このうち、朝鮮人強制連行真相調査団日本人側全国連絡協議会の空野佳弘事務局長、石毛^子衆院議員(民主党)、兵庫県朝鮮人強制連行真相調査団の梁相鎮・朝鮮人側副団長兼事務局長の報告を抜粋して紹介する。(資料提供は朝鮮人強制連行真相調査団朝鮮人側事務局)

日朝国交正常化と「日韓条約」の見直し 空野佳弘

はじめに

 第1に、日朝国交回復は日本政府が最後に残した戦後処理問題だ。日本政府は冷戦思考に基づく共和国敵視政策に基づきこの問題を半世紀以上にわたって放置したが、冷戦が過去のものとなった今、そのような共和国敵視政策そのものの根本的変更が求められる。

 第2に、日本政府はこれまでアジア各国との戦後処理において侵略戦争や戦争犯罪の責任を認め謝罪したことがない。…日朝国交回復は日本政府に戦後処理において自らの責任を認め、謝罪を表明する最後の機会を提供するものとなっている。

 第3に、日朝国交交渉は、2000年6月15日に開催された南北首脳会談以降の朝鮮統一のかつてない前進の歴史的環境の中におかれていることだ。日本政府は朝鮮統一を妨害してはならず、統一の前進とアジアの平和の観点からこれに取り組む必要がある。

日朝交渉の内容

 1、基本的問題について

 第1の基本問題とは、1905年乙巳五条約(韓国保護条約)から10年韓国併合条約に至る朝鮮に対する植民地支配を確立した旧条約の評価に関わる問題だ。これは基本問題という言葉の通り、20世紀前半の約半世紀における日本と朝鮮の関係をいかに見るかという最も基本的な問題である。

 この点について日本政府は、条約は合法的に締結されたという立場を戦後一貫してとり続けてきた。

 05年乙巳五条約から10年韓国併合条約に至る朝鮮に対する植民地支配を確立した旧条約を朝鮮民主主義人民共和国のみならず韓国政府も認めていない。

 周知のように65年の「日韓条約」では10年条約を「もはや無効」とした。日本政府はこの無効になった時期を48年8月15日の大韓民国成立までは有効でありそれ以降無効としている。しかし一方の韓国政府は10年韓国併合条約は当初から無効としている。すなわち南北朝鮮政府と朝鮮民族は過去も現在も10年条約は無効としている。

 2、その他の問題(省略)。

今後の運動

 第1は日朝国交正常化と日韓条約の見直しの運動が不可欠と思う。

 現在、日本国内では韓国の被害については比較的知られているが、それに比べて朝鮮民主主義人民共和国の被害についてほとんど知られていないのが現状だ。この原因は日本政府が戦後も韓国を唯一合法政府として一方的に日韓条約を結び、分断されたもう1つの被害国を敵視しているためだ。

 次に、90年代から始まった戦後補償裁判を通じてこの問題が大きく日本で知られるようになった。しかし問題は、なぜ韓国の被害者が高齢にもかかわらず日本にきて裁判をしているのか。原因は日韓条約にある。ところが日本の裁判所では朝鮮植民地支配は合法との前提で判決がなされている。これでは問題は解決できない。

 第2に真相を明らかにすることが優先的に求められている。

 例えば96年11月に韓国外務省が日韓正常化交渉時の外交文書の部分公開を内定した。ところが日本政府はソウルの日本大使館員を通じ「たとえ一部公開でも、日朝交渉や日韓の信頼関係への影響を強く懸念する」(朝日新聞97年2月20日付)と韓国外務省アジア局の課長レベルに口頭で伝えた。そのうえで、在日韓国人の法的地位など国籍関連の文書公開に法務省が難色を示していることなどを挙げ、慎重に再検討するよう求めとくに交渉における日本側提出文書については「一切同意しかねる」とのコメントをつけた。予定されていた公開文書には漁業交渉や賠償請求権、竹島(独島)の領有権問題などが含まれている。南北朝鮮と日本との関係を明らかにするためにはまず真相を明らかにすることが必要だろう。

 第3に被害国と被害者に対する賠償・補償運動のレベルアップが求められている。

 92年以降の国連人権委員会を中心に、南北朝鮮政府そして南北と日本、さらに世界のNGOの活動によりさまざまな成果を得ることができた。とりわけ日本軍性奴隷問題では国連創設以降最大の成果といわれるほど大きな前進を得た。

 96年国連人権委員会が採択した報告書は次のように明示している。

 「国際的レベルで活動している非政府機構・NGOは、これらの問題を国連機構内で提起し続けるべきである。国際司法裁判所または常設仲裁裁判所の勧告的意見を求める試みもなされるべきだ」

 「朝鮮民主主義人民共和国及び大韓民国は、『慰安婦』に対する賠償の責任及び支払いに関する法的問題の解決をうながすよう国際司法裁判所に請求することができる」

 すでに国際司法裁判所に問題提起する準備はすべて整ったといえる。またこの問題で被害者側が勝訴する法的問題点も解明されたと言われる。

 各国政府が日本政府に対して国際裁判所での解決を迫ることは最も効果的であり、またその判決は明確なものになる。(朝鮮人強制連行真相調査団日本人側全国連絡協議会事務局長)

日本の国会の取り組み、法案提出の動きと協議の紹介 石毛^子

 本年5月、いよいよ日本の参議院において野党提出法案「戦時性的強制被害者問題の解決に関する法律案」の審議が実現することになった。

 法律案の概要を紹介する。第1条「謝罪と名誉回復」を目的に掲げ、第3条は「名誉回復等のための措置」を定めている。その条文を紹介する。「政府はできるだけ速やかに、かつ確実に、戦時における性的強制により戦時性的強制被害者の尊厳と名誉が害された事実について謝罪の意を表し、及びその名誉等の回復に資するために必要な措置を講ずるものとする。措置には、戦時性的強制被害者に対する金銭の支給を含むものとする」。その具体的な実施に関しては政府が基本方針を定め、戦時性的被害者問題解決促進会議を設置して推進を図ることとしている。

 審議入りに先立ち、2月に法案提出者である岡崎トミ子参院議員(民主党)、芳川春子議員(共産党)、田嶋陽子議員(社民党)そして円より子議員(民主党)が「戦時性的被害者問題」の調査にインドネシアを訪問した。今回参加しているマルディエムさんをはじめ実際に被害を受けた強制被害者に会い、被害実態について詳細にうかがった。

 3月19、20の両日には参院内閣委員会でインドネシア調査結果もふまえて「慰安婦」問題に関して集中審議が行われた。強制被害者女性の名誉と尊厳を傷つけたことへの謝罪を求めたのに対し、政府(福田官房長官)は「非人道的行為とそれに対する罪」と認め、「『女性のためのアジア平和国民基金』ですべてが解決済みとはいえない」と従来の政府答弁を修正せざるを得なくなってきている。

 衆議院においても2000年11月に「国立国会図書館法の一部を改正する法律案」を提出している。この法律案は国立国会図書館に「今次の大戦及びこれに先立つ一定の時期における惨禍の実態を明らかにするため」に「恒久平和調査局」の設置を求めている。「恒久平和調査局」の設置により取り組む調査事項については、「日本政府および旧陸海軍における国際情勢の検討状況等大戦の原因の解明、戦前・戦中期における旧植民地からの労働者の徴用、就労の実態、女性に対する性的強制による被害の実態、生物兵器、化学兵器の開発、清算、遺棄等の使用の実態、非人道的な行為による旧植民地者の生命・身体・財産に生じた損害の実態等」とし、すべてにおいて日本あるいは旧陸海軍の関与の実態について明らかにしようとするものだ。

 本法案も5月には委員会に付託される見通しになっている。

 90年代初めに戦時性的強制被害女性の存在が明らかにされて以降、日本の立法府で先輩諸議員の努力により、政府に対する質問が繰り返され、立法の検討が重ねられて、ようやく法案提出までに至った。名誉と尊厳を求める強制被害女性の魂の叫び、連帯する方々の継続した運動の力が日本でも立法府を動かすところにまで及びえたということだ。(衆議院議員・民主党)

朝鮮半島北部から兵庫県内に連行された名簿調査 梁相鎮

 日本厚生省が1946年に「朝鮮人労務者に関する調査」を行い作成した名簿の調査分析結果を報告する。

強制連行

 日本政府は米極東軍司令部(GHQ)の命令により46年6月から7月にかけて「朝鮮人労務者に関する調査の件」という通達を各地方長官(知事)に発し、管内の工場、事業所における戦時中の朝鮮人労働者について一斉の調査を行わせた。

 この時作成された名簿の一部が労働省に保管されていたが、その約6万7000人分が90年8月に明らかにされた。この中で最も多いのが兵庫県分の1万3477人の「名簿」だった。調査団はこの名簿から「朝鮮半島北部」地域出身者を抜き出し、工場別、出身地域別、死亡者、行方不明者(脱走者)と分類してまとめた。

 この「名簿」の分析から特徴的なのは、朝鮮半島北部出身者の90%が44年9月からの「徴用」形式で、全朝鮮からの「徴用」者の51%を占めていることだ。

 しかも、強制連行者の年齢が官あっ旋で見られるように年齢が13歳から60歳代と幅があるのに対して、この徴用者は19歳から23歳までの働き盛りの青年たちであった。

死亡者と空襲

 朝鮮半島北部からの強制連行者の死亡総数は、「厚生省調査名簿」によると48人で、製鉄、造船等の危険と隣り合わせの重労働現場での労災事故による死亡は、8人だけで意外と少ないのが不思議だ。負傷者の記述がないことと、途中帰国者がいることから病気治療、労働不能として何の治療保証もなく送り返された犠牲者の運命はいかなるものであったか明らかにしたい。

 朝鮮半島北部からの連行者の死亡原因で病死者が21人と記載されているが、全病死者の33%に当たる7人が病名不明であり、栄養失調、宿舎の防寒対策の不備、不衛生等で急性肺炎による死亡が21%にあたる6人もいることと、死亡原因不明者が14人もいることは、これら強制連行者に対する処遇がいかに非人間的で奴隷的なものであったのかを明白に示している。

 死亡者の中に米軍の空襲による空爆死が13人いたと「厚生省調査名簿」に記載されている。しかし神戸市中央区にある東福寺に45年6月の神戸大空襲の際、川崎製鉄葺合工場で働いていた朝鮮人労働者の約50体分の遺骨が警察から無縁仏として持ち込まれており、当時、その寺の近くにあった「川崎製鉄の徴用工の寮にあった3つの防空壕に避難していた平安北道から来た青年たちがほとんど死んでいた」という目撃証言があった。この防空壕は、脱走防止のために出入り口が1つしかなかったということで空襲の猛火の中で焼け死んだ者の遺骨を石炭箱に詰め込んで東福寺に持ち込まれたのではないかと思われている。

 川崎製鉄所葺合工場が厚生省に提出した「名簿」は、6月の神戸大空襲の際の死亡者は6人と報告しているが、空襲当日、大挙70人の脱走者があり、その行方が分からない。この70人が東福寺に葬られている約50体の無縁仏ではないのか、空襲犠牲者を脱走として簡略に処理した不当なことが行われたのではないかと疑問に思っている。

 最後に、本年10月に開催される「朝鮮人強制連行真相調査団全国交流集会IN神戸」で兵庫県調査団が提出している朝鮮半島北部出身者名簿にもとづき兵庫県関連の被害者がぜひ、証言をしていただくことを全ての実行委員会を代表し切に望む。

 ※朝鮮半島北部とはここでは、現在の38度線以北、すなわち朝鮮民主主義人民共和国の全地域。(兵庫県朝鮮人強制連行真相調査団朝鮮人側副団長兼事務局長)

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