女のシネマ

KT

まがまがしい時代の叫び


 1973年8月8日、東京・九段のホテル・グランドパレスから、来日中の金大中・元大統領候補(現大統領)が突然姿を消す…。5日後、ソウル市内の自宅前で目隠し傷だらけの姿で発見。当時、「韓」米日をまき込み、国家間の緊張を極限にまで高めた「金大中拉致暗殺未遂事件」を題材にした政治サスペンス劇。「韓」日の「政治決着」で闇に葬られた同事件を再現、直接拉致に関わった人物を軸に、多彩な人物像を配して70年代の混沌の様相を浮かび上がらせている。

 政敵・金大中の拉致暗殺指令が大統領からKCIA(韓国中央情報部)に下り、在日諜報部員の暗躍が始まる。暗殺計画は「KT(金大中の頭文字)作戦」。実行リーダーに金東雲・韓国大使館一等書記官、日本側からは「闘わない自衛隊」に疑問をもつ陸上自衛隊員の富田満州男が積極的に加わる。ここに絡む人物として、民主化闘争で投獄・拷問され全身に傷を持つ李政美、KCIAの暗殺計画をスクープする夕刊紙記者・神川昭和、金大中のボディーガードで朝鮮語のできない在日2世・金甲寿。

 映画は「主権侵害」を盾に積極関与の事実を隠ぺいしようとする日本と暗殺直前に日本の自衛隊機を飛ばして中止要請に出た米国の関与など、実際に疑問視されながら真相究明できなかった点についても、大胆な断定を下している。拉致実行シーンはスリリング。ホテルの廊下を歩くルームサービスをカメラが360度回転、今まさにそこにある危機感を募らせる。

 事件の背景となった70年代は、7.4共同声明発表に沸いたと思えば、直後に独裁政権の10月維新強行、ひんぴんと起こるスパイねつ造事件で朝鮮半島激動の時代。当時の国際政治事件から日本の社会風俗まで、さりげなく散りばめられた画面から隔世の感はあるが、国家権力と巨大組織の中で犠牲を強いられながらも生きようと、身もだえする人びとの叫びが響いてくるようだ。時代のまがまがしさが現在に漂う。阪本順治監督、日韓合作。138分。新宿シネマスクエアとうきゅうほか。(鈴)

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