新学期
授業拝見!!
新学期の4月。朝鮮学校の児童、生徒たちは新しい環境で学びの一歩を踏みだした。先生との出会いもさまざま。そこで教育研究大会などで高い評価を受けている3先生の授業をのぞいてみた。(編集部)
歌に寸劇、ゲームになぞなぞ/楽しみながら400字教え込む 初1ウリマル 東京第3初級・全文姫教員 目、鼻、口など体の部位をディズニーの「ミッキーマウスマーチ」の歌に合わせて「ヌン、コ、イプ、ヌン、コ、イプ」。
朝の眠気覚ましには「きなこ餅の歌」。「大きな インヂョルミ(きなこ餅)チョルポドッ クントッ 小さな インヂョルミ クントッ クントッ」。 餅をつくジェスチャーを加えながらの言葉遊び。自然に眠気は吹き飛ぶ。 「トッキヤ ノーヘーボァ(ウサギさん 君がしてみなさい)」。リスとうさぎが森の中で交流する寸劇に話し言葉で挑戦させ、感情表現を学ばせる。 東京第3初級で1年を担当する全文姫先生(39)は、ドラえもんのように子どもを喜ばすポケットをたくさん持った先生だ。 「若い時に青い服を着て年をとったら赤い服を着る。私は誰でしょう?」 ウリマルのなぞなぞ。答えがひらめいたオリニたちは、口元をゆるませ、ノートに書き込む。この過程でウリマルで聞き、考える能力が育まれていく。
盛り上がるのはゲームの時間。「ウォーンスンイ オンデンイーヌン パールゲ(猿のお尻は赤い)」。続けて「パールガミョン サーグァ サグァヌン マシッソ(赤いはりんご りんごはおいしい)…」。手拍子でリズムを取りながら16の単語をつなげていく。 タイムウォッチを手にする全教員に、オリニたちの視線が集中。女子と男子、どっちが短い時間で言い切れるのかを競う。 「注射は痛い 痛かったら病院に 病院はいーや」「オンマ、行かないよ!」。子どもにとっては勝敗が最大の関心事だが、実はこれ、朝鮮語に独特な「パッチム」の訓練だ。競争心で、学ぶ意欲をくすぐっていく。 日本語から突如、ウリマルの世界に投げ込まれる初級部1年生。1年の間にカギャ表の約400字をしっかり学ばせ、「話す、聞く、書く、読む」能力を育む土台を築くための方法論は、とにかくウリマルを楽しませることだという。 「子どもにすれば、私とは日本語で十分に話せる。通じる言葉があるのに、新しい言葉をなぜ学ばねばならないのか。疑問を持たせないよう心がけている」 アンパンマンをウリマルのビデオで流し、南の児童向けの童詩を読みきかせる。あふれるアイデアが子どもの心をしっかりつかんで離さない。 想像力育み思考させ/「分かる」だけの授業は失敗 理科・物理 東京朝高・申成均教員 東京中高高級部で理系科目を担当する申成均先生(43)。昨年度は1年生の理科と、理数系コース2年生の物理を担当した。 中級部までの理科では比較的身近で単純な現象や対象を扱うため、実験や観察など具体的な活動を通じて理解させることができる。しかし高級部からは日常生活とはかけ離れたかなり複雑な現象や対象を扱う。 今回、取材した2学年3クラスの授業でも、1年理科は星の一生、2年物理は電気回路のことを扱っていた。ともに人間の目で直接見るのは不可能な対象であり、どうしても説明は抽象的になりがちだ。
その打開策として、申先生は例え話をよくする。一見、いや一聴するとただの雑談、冗談に聞こえる例え話だが、説得力があり、そのタイミングも絶妙だ。ざわついていた教室が一気にシーンと静まり返った。 また授業中によく口にするのが、「想像してみてごらん」という言葉だ。実際に目で見ることはできない現象を理解するため、想像力を働かせるよう導く。「理科それ自体は人生と直接関係ない」と言い切ってしまう申先生。理数系の科目は想像力を育み、思考方法、勉強の仕方を身につける場だと考えている。 「分かりやすく教えるのは、そう難しいことではない。何年か経験をつめばできるようになる。重要なのは、生徒自身が考えるようにすること。まだまだそんな授業はできていない」 本人は謙遜して言うが、極力生徒本人が考えるように努めていることは十分にうかがえた。取材した2年7組の授業では「電気振動」という新しい概念に入るところだったが、申先生は教科書を開かせない。黒板に図を書いて説明した後で、教科書を開かせ確認させる。生徒たちは自分で読んで再確認し、納得する形になる。 「生徒自身が思考をしていれば質問が来る。分からなくて、というより、もっと知りたくて新たな疑問がわき、私が教えなかった部分について質問をする。そんな質問がどんどん出るような授業をしなくてはならない。『すべて分かりました』と、生徒たちが何の質問もしないような授業は失敗」 自分で学べる意欲と学力を/一人ひとりの能力を引き出す 英語 神奈川朝高・張末麗教員 インターネットで英文を読んだり、海外にメールを送るなど、卒業後、生徒たちが英語に接する機会は間違いなく増える。 母校の教壇に立って22年目、神奈川初中高高級部で英語を教える張末麗先生(40)は、生徒たちが卒業後にも自分で勉強できる方法論とそれを実現する学力の基礎を与えたいと思っている。中級部で英語につまずいてしまった生徒から英検2級保持者まで、さまざまなレベルの生徒がひとつのクラスで学ぶ難しさはあるが、一人ひとりのニーズと実力に対応することを心がけている。
高級部に入学した時点で個々人のレベルを正確に把握することから始める。そのうえで高1の間に「復習」が主だった宿題を「予習」に切り換える癖をつける。メモ用紙程度の予習プリント。新しく学ぶ課の文法や内容を予習できるものを宿題として課している。 さて、本番の授業。英語で考えて話す力を育むために基本的に英語で質問し、どんどんしゃべらせる。中には英語で理解できない生徒もいるので、ウリマルも交えながら全体の意欲を引き出す。 ネイティブの講師と同校の教員、生徒の3者が英語で会話する「チームティーチング」も9年前に取り入れた。高2、3では英会話を選択課目に取り入れ、レベルアップを望む生徒に対応している。 最近は「スキーマ理論に依拠したリーディング指導」を実践中だ。スキーマ理論とは、生徒個々人が持つ知識を最大限に生かすことを狙った教授法だ。 教材は、黒人差別問題を扱った高3のレッスン6。日本社会で差別的な立場にある在日朝鮮人という境遇から、生徒の想像力をかきたてる点に着目。中高の6年間に学んだ知識や経験が生かせるよう、教材への関心を引き出すための誘導法、読解力を育む適切な設問を研究した。 生徒たちには、新しい課を学ぶたびに目標を書き込むプリントを配る。英語を積極的に学ぶ姿勢を育むためのものだが実はこれ、張先生が自分の授業の理解度をチェックするためのものでもある。「英語の説明が理解できたか」など、20近い質問を通じて生徒の反応を探っている。 「学ぶ対象は毎年違う。生きものだからこそ決まった成功法はない」。毎年1編、授業法を研究した論文を書き続けている。 |