縁起物として重用「岩国れんこん」生産
36年間、情熱傾ける
李佳孝さん(広島市南地域商工会理事長)一家
色白で肉厚 「岩国れんこん」は、約200年前から栽培されてきた。岩国市東部の農地は干拓地で、土壌に塩分が含まれている。そのため米の栽培には適さず、れんこん栽培が始まった。 表面が色白で肉厚、アクを抜かなくても食べられる「岩国れんこん」の秘密は、この土地特有の土壌と水、気候、そして育て方にある。土壌は、一般的な粘土質とは違い、少し塩分を含んだ砂質。これが「岩国れんこん」の栽培にはうってつけ。そこに清流・錦川の豊富な水、瀬戸内の温暖な気候、長年培ったノウハウが加わる。これらの条件が相互作用して「岩国れんこん」が生まれた。 素手の作業 れんこん掘りは大変な重労働だ。最近は小さなパワーシャベルを使い、まず表面20センチほどの土を取り除くが、それから先の作業は、昔と変わらない。すべて人の力で掘る。 「バンクワ」と呼ばれる専用のクワで掘り出し、「カイカキ」(貝掻き)で細かく泥を取り除く。とても力のいる作業のうえ、れんこんを折ったり、傷つけないよう細心の注意を払わなければならない。 普通のれんこんは粘土質の土壌で栽培されるため、ポンプで水を送り込み、その水圧で泥を取り除く。しかし、ここの土壌は砂質のため、傷をつけないよう素手で掘り出さなければならない。そのため、完全機械化は不可能だ。 「 心技体 を要する作業。完ぺきな仕事ができるまでには早くて3〜5年はかかる」(李さん) 早朝から
日本の高校から2年生の時、広島朝高に編入。卒業後、「岩国れんこん」を栽培していた親せきの下で1から学んだ。2年後に独立、自らが畑に出て、研究を重ねながら、こんにちまで生産し続けてきた。 李さんの畑の広さは約2万坪。東京ドームの約1.5倍にあたる。借地だが、持ち主の日本人は「岩国れんこん」生産にかける李さんの情熱に打たれて貸してくれたという。 早朝4時半、広島市南区にある自宅を出発し、車で約2時間かけて岩国市の畑に到着。午後2〜3時頃まで常時5〜10人で作業を行い、家に帰宅するのは4時から5時。それから妻の呉正順さん(54)が、れんこんの泥を丁寧に取りはらって箱詰めし、翌日、広島東部市場に出荷する。 5年前からは、朝鮮大学校を卒業した息子の宗一さん(28)が、後継ぎとしてともに畑に出ている。
「岩国れんこん」は、3月から5月20日頃までに種れんこんを植え付け、7月から9月までの間に早生(わせ)、極早生(ごくわせ)、晩生(おくて)の順で収穫する。 しかし、それだけだと収穫期が一定期間に限定されてしまい、収入に大きな影響を与える。そこで講じた対策が、他品種の栽培と早生の年間を通じた栽培だった。 通常、春から初秋にかけて作られる「岩国れんこん」を、年中栽培、収穫するに至るまでには、大変な努力と工夫が必要だった。例えば、ビニールのトンネル。トンネル内の温度を高めることで、冬でも寒さかられんこんを守り、収穫を早める効果がある。その結果、6月を除いて早生を収穫できるようになった。 アボジの背中見て しかしその間、相当な手間ひまをかける必要がある。天候に気を配りながら、肥料をまいたり、草むしりをしたり、酸素が少なくなれば水をあげなければならない。 「台風が直撃すれば、それまでの努力は一瞬にして水の泡と化してしまう。カモは秋から春にかけてやってきては芽や身を食いあさっていく。その対策は企業秘密」(李さん)とか。 「子どもの頃、アボジが夜も明けぬ3時には家を出て、夜遅くまで仕事で帰ってこなかったことをよく覚えている。いまはその苦労を身をもって知ることができる」と、アボジの背中を見て育った息子の宗一さんは言う。 息子が風吹かせる 全国でも屈指と呼ばれる「岩国れんこん」だが、近年、生産者の高齢化や後継者不足、進む市街化による栽培面積の減少、消費の伸び悩み、安い輸入れんこんの出回りなど、生産・販売を取り巻く環境は非常に厳しい。 だが、李さんは、家族と協力し合って問題を解決している。宗一さんが農業と商売を引き継ぎ、新しい風を吹かせているからだ。 例えば、市場販売だけではなく、昨年から始めた広告販売は宗一さんの提案によるもの。インターネット販売も検討中だ。 妻の呉さんも「岩国れんこん」をもっと広く知ってもらおうと「れんこん餅」(写真参照=作り方も)を考案。モチモチ感を生かした味はなかなかの評判だ。言われなければ、本当の「餅」と思ってしまうほど。モチモチ感はあっても餅のようなねばりっけはない。低カロリーのためダイエットにも効果的だ。 また、呉さんがれんこんを使って作った煮しめなどは、総聯および女性同盟の広島市南支部、皆実分会などの同胞らの各種集い、同胞らの結納の際には欠かせない1品になっているという。(羅基哲記者) オモニ考案の「れんこん餅」作り方 ●材料…岩国れんこん、塩、コショウ少々、小麦粉(または片栗粉)適量 ●作り方…れんこんをすりおろす。水気をきり、つなぎに小麦粉(または片栗粉)を入れ、塩・コショウで味付けよくまぜる。フライパンにごま油をひき、形を整えて焼くと出来上がり。お好みでポン酢・マヨネーズ・ドレッシングをかけて。 ●効用…岩国れんこんはでんぷん、ビタミンCを多く含み、繊維質が多いので整腸作用がある。疲労回復、胃の健康、利尿作用にも効果的。 |