それぞれの四季

レシピを作る

梁愛齢


 食材や調理法のことをこの頃はレシピという。

 ハルモニ自慢の料理のレシピを作るのは、大変かもしれない。醤油これくらい(ダバダバ!)、砂糖これくらい(ザー!)。

 「後はチャンジルン入れて手で混ぜる。分量? 見て憶え。はよ食べなネンセするで」

 たとえばチャプチェはおいしい。が、すぐいたむ。手で混ぜるからだ。「手の味が一番や」と、信念を語られると黙って食べるしかない。

 しかし、それでは、いけないこともある。

 20年ほど前、神戸の長田で夏を過ごしたことがある。ある日、赤銅色の顔をしたハラボジとハルモニの言葉に耳を傾けていると、なんと、阪神教育闘争の体験を語っておられるのが解った。サトゥリだらけで、私の耳は、ほんの一部しか聞き取れなかったのだが…。

 ハラボジは逮捕され、ハルモニは県庁の前で座り込みをしたそうだ。糞便もまいたそうだ。闘って、勝った、その髪はすでに白く、手の甲に刻まれたしわは深かった。

 歳月の流れほど無情なものはない。それに長田は、大震災の炎に包まれた。

 あの方たちは、お元気だろうか?

 1世の方々が、文字を知っておられたらと思う。普通の人が闘士であったりするのだから。それを聞かされたら石も叫ばずにはいられないような人生だってあるのだから。

 聞き手である私たちの「耳」に問題があるという理由でそれらがなくなってしまうのは本当に申し訳ない。

 音声でも映像でも良いから記録媒体に、残しておくべきだと思う。普通の人々の記録を。ちゃんとした「耳」が、歴史として記すまで。(会社員)

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