朝鮮の食を科学する(2)
キムチ漬物消費ダントツ1位
胃ガン抑える効果、ダイエットにもいい
キムチは朝鮮民族の知恵によって生まれた食べものである。このキムチがいま日本に急速に広がっている。「食品需給センター」が統計を取り始めた1983年には3万4000トンだったのが、2001年には36万トンで10倍強の飛躍的な伸び率である。日本の清物業界全体の売上高の約27%がキムチで占められ、「ダントツ」商品となっている。
各種の要素が絡んではいようが、キムチの持つ価値が多くの人に受け入れられた結果であることは言うまでもない。 キムチが日本に広がり新しい食文化として定着したのは、在日同胞の生活からであり、商売として始めた焼肉店や食品材料店の力によるものであることは言うまでもない。つまり在日同胞文化に源泉があるのだ。 在日同胞文化の源泉 在日同胞が身につけていたキムチ作りの文化にはどんな歴史があるのだろうか。 キムチという言葉は「沈菜(チムチェ)」という語に由来するという。チムチェがキムチェ、キムチへと変化したものとされる。 漬物類を沈菜としたのはかなり古くからではあるが、その時代にいまと同じキムチがあったわけではない。 先ず材料の白菜類はなかった。ダイコン、白ウリ類、青菜類はあったが、結球する白菜は作物になってから120〜130年くらいしか経っていない。つまり今日のような「白菜キムチ」の歴史は浅いのである。 どんな漬物があったのか、ダイコンに塩をしてかめに詰め込み、水っぽく漬ける「冬沈(トンチミ)」が冬の漬物つまり保存食であり、しょうゆ漬けにした「チャンアチ」が夏の漬物だったのである。これらにはトウガラシは使われていない。トウガラシが使われるようになるのは18世紀半ばごろからなのである。連載のトウガラシの項で取り上げるが、日本に伝わったとされるトウガラシが、漬物に使われることで、「漬物文化」に大きな「変革」がおこるのである。 水っぽい「ムルギムチ」(水キムチ)タイプのものが、主流だったのが、水気の少ない現代タイプのものへ変わるのである。それはトウガラシが塩辛、ニンニク、果実類を合わせた「薬念(ヤンニョム)」を添加することを可能にしたからである。 乳酸菌が健康の元 トウガラシの辛味成分カプサイシンが塩辛材料の腐敗を防止する力があることと、水キムチに辛味は役に立たないからである。 冬沈のようなキムチも薬念を加えた「現代タイプ」のキムチも漬け込んで発酵、熟成させるのが特徴である。つまり、キムチは発酵食品である。 発酵作用の主人公は乳酸菌である。乳酸菌飲料が多く出回っているのは、健康によいからである。キムチと乳酸菌はヨーグルトなどのものと同一ではないが、腸内に到達すれば健康効果は現れる。最近の研究では胃ガンの要因になりやすいピロリ菌を抑える力を持つことが分かってきて、健康効果の幅が広がった。キムチは乳酸菌のいる健康食品なのである。また、乳酸菌などの微生物の作用によってビタミン類が新しくつくられる。ビタミンB1、B2、ナイアシン、B12などが生産されて栄養価値が高まる。キムチは野菜が材料であるため、野菜中の食物繊維による消化促進効果が大きい。腸の運動を活発にしてくれるのである。さらにキムチのトウガラシの辛味成分が消化を助けるし、体温を上げ、発汗を促し、新陳代謝を活発にする。結果としてストレス解消、ダイエット効果へと繋がってくる。 これらの効果はしっかりと発酵、熟成したキムチにある。いま日本のスーパーに出回っているキムチの多くは、発酵不十分の浅漬キムチである。このタイプは野菜の食物繊維による消化促進、トウガラシの消化促進、新陳代謝などの作用は同じであるが、乳酸菌とビタミンの価値は期待できないことを知っておこう。 在日同胞の生活の中から生まれたキムチ文化、これからまだまだ広がっていくだろう。(滋賀県立大学教授) ◇ ◇ 鄭大聲教授に朝鮮の食文化、あるいは焼肉、キムチなどについて、質問のある方は、朝鮮新報文化部あてにメールsinbo@korea-np.co.jpでお尋ね下さい。次号の鄭教授の連載記事の中で、お答えします。 |