焼肉激戦区−繁盛店

BSE乗りきり満席

大阪・東成区、焼肉レストラン「飛龍」


8割まで戻す

 「満席です。少々お待ちいただけますか」――大阪・東成区中道にある焼肉レストラン「飛龍」の店長、宋昌道さん(31)が接客のかたわらこう答える。

 1月中旬の金曜日、午後7時。1、2階にある15テーブル(6人がけ90人収容)は、仕事帰りのサラリーマンらですでに満席だった。

 BSE(狂牛病)問題とはまったく無縁のような盛況ぶりだ。

 その秘訣について宋店長は、「『肉を食べるなら焼肉。だけど…』というのがファンの大半だったはず。だから、従来から行っている会社訪問などの営業回りを粘り強く続けながら、集客のために肉の半額イベントを実施し、お客様が店に戻ってこれるきっかけを作った。また、お客様が『食べるならあの店の肉を食べたい』という、信頼関係も築いてきた。結果、一時は4割に減ったお客様も今では8割まで戻すことができた」と語る。

積極的にきっかけを

 まずはイベント。11月の1カ月間、肉の半額キャンペーンを実施した。2カ月近く牛肉を断っていた客に再びそのおいしさを味わってもらうためだったが、これが成功し、忘年会や新年会の予約に結びついた。忘年会は一昨年と比べれば半分程度だったが、それでも他店と比べればかなりの数だ。1月7日から2月末までも肉の半額キャンペーンを実施、さらなる顧客の開拓をめざしている。

 肉を半額にしていることについて宋店長は、「トータルで考えれば3割引程度だ。お客様あっての商売であり、まずは客を呼び戻すことが肝心。食べ盛りの若者が半額商品を中心にオーダーすることもあるが、飛龍の味を知ってもらい、ファンとなってくれれば店は活気づく」と考えている。

 営業回りは、お得意様へのお礼を兼ねて、新規客獲得のために、BSE問題以前から行ってきた。同店はJR森ノ宮駅と玉造駅の間にあり、隣駅の鶴橋周辺に同業者が多数立ち並ぶとあって、厳しい競争を生き抜く戦略として始めたものでもある。

 「お客様が来るのを黙って待つのではなく、肉の安全性や店をアピールするため、積極的にお客様の中に入っていくことが必要だ。営業の基本はその繰り返しでは」と宋店長は語る。

1人前120グラム

 さらに、店と客との信頼関係が築かれていたからこそ、集客に結びつけることができた点も見逃せない。

 信頼関係とは、つまり肉の質と量である。他店と同じ価格でも、他店より上質の肉を提供。例えば、上ロース、上バラ(カルビ)は和牛の特選クラスであるにもかかわらずいずれも1800円。並はともに950円。量も1人前、他店では70〜100グラムのところ、同店では120グラムとボリュームたっぷりだ。

 顧客が定着したら肉質を落とすという店も中にはあるが、ここでは「正直な商売」を心がけ、17年前の開店以来、同じ肉質、量を維持してきた。

 アボジの宋栄作さん(59)が営む精肉「つぼ山食品」から肉を仕入れているからこそできることとは言え、何があっても品質は落とさず良い肉を安く提供し続けてきたことによって、地域住民の厚い信頼を得ることができたわけだ。

 その結果、今では「焼肉を食べるなら飛龍」と言われるほど、サラリーマンやファミリー、カップルなど多くの固定客をつかんだ。宴会などで店を利用したサラリーマンが後日、家族を連れて来店することもある。遠く姫路からわざわざ来る人もいるほどだ。

 このように客との信頼関係を築けたことが、BSEの風評被害にもかかわらず、早くから顧客の足を呼び戻すことができる結果につながった。

人気の手打ち冷麺

 店では肉だけでなく、ほかのメニューにも力を注いでいる。人気メニューの冷麺は自家製で、オーダーが入ってから麺をこねるため、市販のものと比べてコシがある。これ目当てに来店する客も少なくない。

 宋店長は、「無理せず、正直な商売で、これからも地元住民との共存、共栄を図っていきたい。それが商売の基本であり、BSE問題を乗り切り、店を守っていくうえで重要なポイントだと思う」と語っていた。(羅基哲記者)

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