米国こそ世界最悪のテロ国家だ

「ノーム・チョムスキー」 鶴見俊輔監修


 本書は反骨の知識人ノーム・チョムスキーの今年5月に収録されたインタビューとその活動の記録。同時に製作されたドキュメンタリー映画「チョムスキー9.11」が、ユーロスペースでも上映中である。

 今年74歳になるチョムスキーは、現在もマサチューセッツ工科大学教授として研究を続ける言語学者。言語学の世界に革命をもたらし、国際的にその業績が高く評価されている。

 一方で、ベトナム戦争以来、アメリカの外交政策を批判する活動を一貫して続けており、特に昨年の9.11の同時多発テロ以降、彼の事実に基づいた鋭い政治評論と発言は、アメリカ内外で高い注目を集めている。本書はロックバンドU2のボーカル、ボノが「飽くなき反抗者」と、作家の辺見庸氏が「胸底の深さを測ることなど到底できはしない人物」とするチョムスキーの深奥な世界を堪能できる。

 チョムスキーは聖書を紐解いてこう言う。「偽善者とは、他人に対して自分が適用する基準を、自分自身に対して適用しない人間のこと」だと。コロンビアやニカラグアで、また、ベトナムや朝鮮、パレスチナで米国は何をやったか。チョムスキーは朝鮮戦争で米軍が無差別爆撃をしながら、朝鮮各地のダムを爆撃した事実に触れ、「狂信的な人種差別」だと激しく非難している。「中米では(米軍によって)約20万人もの人が殺された。100万人以上の難民、孤児、終りなき拷問、考えうるすべての蛮行が行なわれた」「アメリカのニカラグア攻撃によって、事実上、国が崩壊してしまった」「米国の対外経済援助をもっとも多く受けていたエルサルバドルでは、類い希な残虐行為が行なわれた。アメリカ軍は解放の神学(ラテンアメリカで1960年代後半からカトリック協会の一部の聖職者らを中心に起こった運動。貧しい民衆の立場からキリスト教をとらえ直そうとした)を打ち破った」。米軍はエルサルバドルで大司教を殺害し、有力なイエズス会神父6人を殺害して、解放の神学を打ち砕いた―。さらに82年のイスラエルにおけるレバノン侵攻によって2万人がイスラエル軍によって虐殺された。

 これらはアメリカによる国際テロであった。アメリカがゴーサインを出し、武器を供与し、そして外交的なサポートをして、遂にPLOの破壊と追い出しに成功した。チョムスキーはテロの定義に関する欺瞞と虚構を見事に暴くのだった。「我々や我々の同盟国に対するテロのみがテロなのです。我々や我々の同盟国が他者にテロを行なった場合はテロになりません。これは報復テロもしくは正義の戦争というわけです」。ここで彼がもっとも言いたかったのは、「アメリカこそ世界最悪のテロ国家だ」と言うこと。「テロリズム」とは、アメリカ以外の国が取る行為についてかぶせる言葉なのだと―。

 世界中の行く先々に、チョムスキーを熱烈に迎える市民がいる。彼らはチョムスキーの発言に共感し、励まされている。今の時代、人間の良心や良識を保つのは、闘争心と知性によって支えられると実感できる。(朴日粉記者)

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