閑話休題
ああ、良識よ、良識よ
「揃ったね、国家、日の丸、愛国心」
拉致事件によって、多くの人々が傷ついた。評論家の鄭敬謨さんの落胆も大きかった。
発表されたばかりの「粒(40号)―ああ、良識よ、良識よ」には、その時の率直な気持ちがつづられている。「なぜ、北朝鮮はこのような愚行を犯してくれたのか。憤懣やる方のない思いを抑えることができませんでした」「アルコールを飲んだせいもあって、女房の前で声を上げ泣き崩れてしまったのです」。 鄭さんの気持ちの底にあったのは、「同じ民族の一員として、重くのしかかってくる失望感」であった。そこからある意味で立ち直るきっかけとなったのが、日本列島を覆い尽くした「北朝鮮叩き」の罵声だった。 「己れの脛の傷にはひと言もふれることなく、絶対的な善、相手は絶対的な悪であるかのように、拉致問題であれ、核の問題であれ、これほど凄まじい声で北朝鮮を糾弾している日本のマスコミの在り方を見るにつけ、次第次第に怒りがつのってきましたね。いったい日本人社会に良識というものがあるのか、むしろ日本人社会に対して警告を発すべきではないかという気持ちに変わってきたのです」と鄭さんは書く。この間の在日同胞の心情を映し出すような記述に、共感を覚えた。 己れを「絶対善」の立場におき、安心して北朝鮮に対し、「ブッシュの先制攻撃を受けて潰されてしかるべき悪の権化」だと言わんばかりの敵意をむき出しにしながら、侵略思想丸出しの右翼的「愛国心」を煽り立てていった日本のメディア。 川柳にも歌われた「揃ったね、国歌、日の丸、愛国心」。そこから導かれるものは、戦争への道しかない。(粉) |