朝鮮半島の核安保危機 -在米コリアンの視点-〈下〉
朴文在
いわゆる94年のジュネーブ基本合意は、基本的にこうした背景の下で両国が作成、調印したものである。
合意には、朝鮮側が現存の黒鉛減速炉の使用済み燃料棒を処理する過程で、核兵器を製造できる程度のプルトニウムを抽出しないこと、国際原子力機関(IAEA)による継続的監視と査察(監視団は朝鮮に常駐)を受け入れること、そして軽水炉2基のうち第1号基の核心設備が搬入される直前に、IAEAの追加的な包括的査察を受けることを約束している。 実際的により重要なことは、朝米両国が朝鮮半島の非核化(92年に南北で合意した宣言)を維持するとともに、アメリカが核威嚇(米国が合意後に唯一の核保有国となるため)の中止に合意したことである。朝鮮がかかる基本合意文を全面的に履行してきたという事実は、朝鮮のウラン濃縮が問題化するつい最近までCIAによって証明されていたところである。 米国の義務不履行 1、朝鮮のエネルギーの需要を満たすための軽水炉2基の建設。 これは、プルトニウムが生じる黒鉛減速炉を引き続き稼働させる必要性をなくすためであった。合意文は、第1号基が2003年に100万キロワットの電力生産を開始、第2号基がその1年後に生産を開始することを明記している。合わせて200万キロワットの電力生産が実現すれば、朝鮮における経済復興を促すものと期待された。米国は、しかしこの約束を果たさなかった。 8年という歳月が流れたが、米国を中心とする同プロジェクトの監督にあたる行政機関・KEDOは、軽水炉から電力が産出されるまであと4〜5年の遅れを予測している! 同プロジェクトの資金集めがほぼ完全に韓国と日本によってまかなわれ、必要な技術のかなりの部分が韓国のものであり、さらに両国の約束履行において遅れはなかったという事実に留意することが重要である。 したがって、軽水炉プロジェクトは、決して米国の一部の層が言うような朝鮮の「悪い行い」に対する米国の「報償」などではないのである。 2、毎年50万トンの重油提供。 これは、軽水炉が稼働するまでエネルギーを提供することを意味した。この重油提供の件については、米議会が後になって朝鮮が自ら取り決めの約束事を守っているかどうかを毎年、米政府が議会に証明しなければならないという条件を付けた。朝鮮にとっては、明らかに侮辱的な行為だった。 加えてこのことが、朝鮮が米国の確定した義務と見なしている約束事の履行については半信半疑にならざるを得ないと考えさせる一要素となった。なぜなら、自ら核計画の廃止を誓ったものの米国にそのようにあしらわれたからである。 朝鮮にこれまで船便輸送された重油について言うならば、質は最低で発電所のボイラーの効率に問題を引き起こす代物であったことを付言しておかなければならない。 3、関係正常化と制裁・禁輸措置の解除。 これについては、はっきりした時間の枠は設けられていないが合意文に言及されている。米国がこの線に沿って実行したものは何もない。 反対に、ブッシュ大統領の朝鮮政策の一貫した特徴は、彼の文化的鈍感さに満ちた反北レトリックに現れている。それは、ブッシュ大統領が今年初めに行った有名な「悪の枢軸」発言でピークに達した。米国は南北の緊張緩和の動きを決して温かく歓迎しなかったし、そのことがアメリカの意図にますます疑念を抱く韓国の階層を増大させた。 朝鮮戦争以後、米国がおよそ半世紀にわたり朝鮮に課してきた制裁と禁輸措置のため、朝鮮の経済は厳しい制限を受け同国民は計り知れない試練にさらされてきた。しかし、米政府はその解除のことについては検討すらしなかった。 4、半島の非核化と朝米の敵対関係の停止。 基本合意のこの部分においてもまた、米国の行動は常に合意の精神に反するものであった。朝鮮はミサイルの発射実験を抑制してきたにもかかわらず、米国のNMD(本土ミサイル防衛システム)の開発とABM(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)の破棄の口実にされてきた。 朝鮮半島の非核化と同地域における核の使用禁止という概念は、ブッシュ政権の「核戦力態勢の見直し」(Nuclear Posture Review)と呼ばれる秘密計画の露呈によって大打撃を受けた。同計画によると、いわゆる核兵器を持たない「ならず者国家」に対し米国の核使用を認めるとされている。これは基本合意に対する公然たる違反である。 提言 いかなる国といえども現在、朝鮮半島で生じている問題を武力で解決しようとするのは極めて不当なことである。 朝鮮に対する攻撃は、たとえそれが特定の施設へのいわゆる「外科手術的」爆撃やピンポイント攻撃であっても、直ちに韓国だけでなく日本、そして在韓米軍に対する朝鮮側の全面的かつ全戦力を動員した報復を招くであろう。それは韓国の経済インフラを完全に破壊し、数百万の死傷者を出す結果をもたらすだろう。 朝鮮に対する「優しい無視(benign neglect)」政策は、もはや選択肢にはなりえない。なぜなら、それは同国をして自ら抱く安保の懸念のために核への道に追いやるからである。すべての関係国による関与、対話、交渉こそが唯一の実行可能な選択肢である。したがって、われわれは以下のような一連の提言を行いたい。 1、94年の基本合意を支持し実行する。 合意文には、双方がそれを忠実に履行すれば満足がいく平和共存に必要なすべての要素が含まれている。米国は軽水炉2基の建設を急ぐとともに、朝鮮に対しその完成までの正確で現実的な予定表を示すべきである。それまでの間、米国は2003年度から毎年、200万キロワットの電力に見合うエネルギー源を提供し、朝鮮のインフラ整備計画を支援する。 そのために、合意文にうたわれている通り毎年50万トンの重油供与を継続する。米国は、段階的な制裁・禁輸の解除を含めて朝鮮との関係正常化の予定表を作る。この予定表は、朝鮮が明らかに科学技術関連の企業を除いて、ウラン濃縮設備だけでなくプルトニウム貯蔵所、(もし保有していればの話であるが)生物・化学兵器を解体し、ミサイル関連技術を破棄するための予定表と相互参照できるだろう。 2、米・韓・朝の間で不可侵条約を締結する。 朝鮮半島の完全かつ検証可能な非核化と並んで、合意の一部である朝米関係の正常化や制裁解除が実現すれば、朝鮮の安保懸念を緩和するための不可侵条約締結の障害はなくなる。 3、早急に平壌駐在米連絡事務所を設置する。 正式の外交関係樹立を待つのではなく、またその場限りの特使を派遣する代わりに、米国は平壌に常駐する政府代表事務所を設けるべきである。そうすれば、双方が良好な関係を継続的に調整できる。同事務所には、朝鮮の最高指導部が信頼と尊敬をもって接見できるような、大統領の指名による極めて地位の高い人物が配置されるべきである。 4、米朝韓日中露の6カ国の代表で構成される研究グループを組織する。このグループは統一、軍縮、経済発展、恒久的中立のオプションという目標に向けて、朝鮮半島に関する長期的プランを研究する。 |