金剛山歌劇団南朝鮮公演
統一に向け手を取り合おう
釜山、全州市民と思いをひとつに
KE714便に乗った金剛山歌劇団団員たちは、それぞれ初めて訪れる釜山の地にアボジ、オモニ、そしてハラボジ、ハルモニへの想いを馳せていた。
「陸が見えるぞ!」誰かの叫び声に、団員たちの多くが飛行機の窓に顔を近づけ、淡い紫色の霧の彼方に浮かび上がる島々と山脈を、食い入るように見つめていた。 「アボジの故郷」
金剛山歌劇団の南朝鮮公演は、歴史的な6.15共同宣言が発表された2000年12月のソウル以来、2度目のことだ。 11月30日、金海国際空港に降り立った舞踊手の朴泉美さんは、釜山市民らの温かい歓迎を受けて、込み上げてくる涙を抑えきれなかった。「アボジが慶尚南道出身なんです。私より、この地を懐かしんでいたアボジが先に来なくてはならなかったのに…」。 市内に向かうバスの中でも団員たちは、車窓の外を流れる風景に目をやりながら、ハングル文字で書かれた看板を声に出して読んでみたり、釜山の街並みを日本や北のそれと比べておしゃべりを楽しみながら、過ごしていた。 公演を1日前に控えた12月1日の朝、ホテルの裏側に位置する海雲台の海水浴場に足を運んだ団員たちは、真っ白な砂浜と青く澄んだ海に皆、歓声を上げて駆け出した。 そんな中、男性舞踊手の崔成樹さんはひとり、せっせとビニール袋に浜の砂をつめていた。聞くと、「亡くなったハラボジのお墓に蒔いてあげるため」だという。 「ハラボジはアボジが高校生のときに亡くなった。今回私が釜山に行くと知ったハルモニから、ほかの土産はいらないから、故郷の砂を持ってきてくれと頼まれた」 初公演のリハーサルのときから、司会者の金明姫さんの声はたびたび涙声になっていた。 「祖国統一が実現されてから来るものだと思っていたのに、私たちはこのように故郷の地を踏むことになりました。祖国の統一を待ち焦がれていた1世の方々の願いが今かなえられているのでしょう…」 金さんの言葉に、客席から喝采が送られる。 故郷の話をするたびに涙していたハルモニ、遠い空を見上げながら、祖国が統一されたら最初に故郷に帰りたいと、孫娘の金さんを見ては「朝鮮語をしっかり学ぶんだよ」と常々言っていたハルモニを想う気持ちは、彼女ひとりのものではなかったはずだ。 喝采をあびた公演 「希望の道」「鳥のように」「民謡メドレー」「農楽舞」など、金剛山歌劇団の公演は、在日同胞の統一への願いと民族情緒あふれる歌と踊りで構成された。 「今日の公演は本当にすばらしかった。団員の方々の表情や歌声が可愛くって、どうしたらあんなふうに可愛く笑えるのかなあ、そして私もあんなふうに笑いたいな、と思った。舞踊をするオンニたちとは、1度一緒に練習もしてみたい」(リュウ・チスク、釜山・中1)、「公演を見る間、舞台から目を離すことができなかった。あまりにも感動的で、自然に涙が込み上げてきた。舞台に上がるまでどれくらい練習したんでしょう。これからも、頑張ってください」(ファン・ミンヨン、釜山・大学生)、「金剛山歌劇団の公演は初めて見た。異国で暮らしながら民族の心を守り、統一にむけて歌い踊る姿に感動し、今後も統一運動に励む決意を固めた」(ミン・ビョンリョル、釜山統一連帯執行委員長)など、観客たちは年齢、性別に関係なく、皆満足感を表していた。 観客の心つかむ
中でも特に人気が高かったのが、舞踊「鳥のように」。日帝統治下で涙をこらえながら玄海灘を渡った1世たちが故郷にいる肉親を想い、夢の中ででも故郷に帰りたいという想いを表現したこの作品は、多くの観客の心をつかんだ。 「どう言えばいいのか、わが民族共通の哀愁があるじゃないですか。20世紀の辛い歴史を共有してきたという…。公演を見て、日本で暮らす同胞たちも私たちと同じく分断に胸を痛め、祖国統一を切に願っているんだと知った。そして、だからこそわれわれはひとつになれるのだと確信した」(ホ・グァンス、全州市民)、「日本で暮らす若者たちが、こんなにすばらしい公演を見せてくれたことに驚きを感じている。そして、あの民族楽器が北から贈られてきた物だと聞いて、ますます驚いた。北は日本での民族教育を支えてくれているのですね。心が温まり、本当に気分がすっきりした」(キム・イルスン、釜山市民) 半世紀のときを経て、その子孫らが民族の一員として誇らしく戻ってきた金剛山歌劇団の南朝鮮公演は、多くの釜山と全州市民らに熱い感動を与えた。そして祖国統一の新たな時代を生きる若者たちにとっては、北と南同様、日本で暮らす在日朝鮮人の若者たちも統一の時代を共に手を取りあって生きていく存在であることを確認する機会となった。(金潤順記者) |