朝鮮半島の核安保危機 -在米コリアンの視点-〈上〉

朴文在


 核問題を巡る朝鮮半島の緊迫した状況をどう見るのか。在米コリアン同盟運営委員会委員長兼米朝医学交流委員会委員長である在米同胞・朴文在氏の寄稿を2回に分けて紹介する。(なお、原文は英文)

序論

 在米コリアンの間では、朝鮮半島における危機は個人的にも重大な関心を呼んでいる。その主な理由は、彼らの大多数が半島に密接な家族のきずなを持つ1世の移住者だからだ。恐らくより重要なことは南、北、海外のすべての人に見られる母国、コリアへの熱い思いである。

 大半の在米コリアンは、米国と朝鮮の間に醸し出される危機が現在のものを含めて両国の文化的違いに対する理解の欠如から生じるものと感じている。米国の「力は正義」という態度と、自決の原則、安保への懸念に基づいて抵抗する朝鮮の姿勢がそれである。

 大半の在米コリアンはまた、朝鮮半島の諸問題が明らかに解決できるものと信じている。というのは、その他多くの地域での問題とは異なり、朝鮮半島では民族的な違い、宗教的対立あるいは文明的パラダイムの衝突といった問題が存在しないからである。

 したがって、われわれは在米コリアンという有利な立場から、現在の危機に関する以下のような客観的分析を提供するとともに、われわれの出身国の平和を達成するための当面および長期的提言をいくつか提示したい。

現在の危機的状況

 小泉純一郎首相の9月の平壌訪問は、朝鮮が1970年代に13人の日本人を実際に拉致し、そのうち5人が生存、同国に居住していることを認めるという驚くべき結果をもたらした。加えて、小泉首相が朝鮮と米国に対し意義ある対話を開始するよう促した結果、10月3〜5日、米国務次官補・ジェームズ・ケリー特使を団長とする米国代表団が平壌を訪問しブッシュ政権と朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)との初の公式接触が実現した。しかし、両国の関係改善を切実に願う人々にとって残念なことに、同会談はすでに緊張している両国の関係をさらに複雑にさせる効果をもたらした。朝鮮は、ケリーを「高飛車で傲慢」と非難、一方のケリーは、会談は双方の立場を明確にする有益な場であったと述べた。これは外交用語で、進展はなかったという意味である。10月16日、ホワイトハウスは、ケリーの平壌訪問中、朝鮮の交渉相手である姜錫柱第一外務次官が同国にはウラン濃縮能力があると認め、ケリー一行を驚かせたと発表した。

 このように朝鮮によって即座に明かされた新事実は、同国とその指導者が「悪」呼ばわりされるにふさわしいかのような効果をもたらし、1993〜4年に朝鮮がプルトニウムを燃料棒から抽出し保有していることが明らかになって、核拡散防止条約(NPT)から脱退すると脅したように、朝鮮半島を再び「核危機」に陥れることになった。

 アメリカ人の中には、こうした由々しい事態をさらに懸念し、朝鮮半島の平和を維持することを熱望する150万以上の人がいる。それは在米コリアンである。在米コリアンの大半は比較的最近、移住した人々であり、例外なく朝鮮の南と北の両方に近い家族的つながりがある。朝鮮戦争を経験した年輩の人たちは、いまだに戦争による破壊に対する生々しい記憶を持っている。彼らの多くは個人的に、あるいは団体を代表して朝鮮を訪れて人道的、宗教的、医学的な対話を通じて、敵意や不信感を相互理解、精神的治癒、和解に転換する可能性を模索してきた。彼らはアメリカ人として訪朝するが、朝鮮、韓国、米国間の相異なる政治イデオロギーについては中立的立場を取っている。しかしながら、彼らは共通した文化的背景の観点から諸問題にアプローチし、相手を理解するための真しな努力を重ねることで、これまで相互信頼と尊重に基づいて朝鮮当局とのすばらしい実務的関係を築くことができた。

 このように、ややユニークで客観的なスタンスを取りつつ、現在の「危機」に対する理解力と強い感受性をもって、またワシントンの政策立案者が正しく、思いやりがあり、恒久平和の維持に貢献するような朝鮮半島政策を策定するうえで一助となるよう願いつつ、次のような意見と提案を述べたい。

日本人拉致問題

 これは途方もない犯罪行為であった。犯人は処罰されるべきであり、詳細な事実関係をすべて公表すべきである。朝鮮政府は、亡くなったそれぞれの犠牲者の死亡状況を家族に明らかにし、遺族ならびに5人の生存者に対し適切な補償をすべきである。われわれ在米コリアンは、これらの日本人被害者とその家族に深い同情を寄せている。われわれはこの機を借りて、遺憾と謝罪のしるしとして被害者補償のための基金設立計画を発表するものである。

 われわれはしかし、日本の国民と政府がこの問題で朝・日両国の関係正常化交渉のプロセスならびに補償問題で妨害しないことを強く望む。われわれは、日本側が朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)に対する財政支援公約の取り消しを思いとどまるよう強く勧告したい。悲嘆にくれる拉致被害者を含む日本の国民、政府、そして今回の政府間交渉担当者は、戦時中に日本が2万8000人以上の朝鮮人をサハリンに強制的炭坑労働者として無理やり移住させて拘留したうえ、戦後も彼らの帰国実現を怠ったという事実を思い起こして欲しい。同時に、8000人以上の若い朝鮮人女性が日本によって移住、監禁を強いられ性奴隷にさせられただけでなく、彼女らの遺体の大半がこんにちに至るまで、風に吹きさらしの旧満州平野、あるいは東南アジアのジャングルのどこかに放置されたままになっていることも。

核兵器開発問題

 朝鮮側がウラン濃縮能力を保有していることを認めたことはブッシュ政権を驚愕させたと思われるが、しかし呵責の念も見受けられない、割り切った言明が姜錫柱第一外務次官によってなされたということは注目に値する。ここに米国と朝鮮の認識の違いがある。朝鮮側は明らかに自らの行動を、米国側こそ94年のジュネーブ基本合意を履行していないと同国が見なしていることに対する自然な応答であると考えている。

 われわれ在米コリアンは、朝鮮側のこうした行動は94年の米朝基本合意の精神に反すると一般的に受け止めている。しかしながら、ウラン濃縮が兵器レベルに達しないのではないかという議論がある。また、94年の基本合意が92年の朝鮮半島非核化宣言と相互参照の関係にあるものの、前者はプルトニウムの兵器化問題だけを扱っているため、ウラン濃縮活動は同条約の範疇外であるという議論もある。

 ソ連とその東欧同盟国の崩壊で朝鮮は、エネルギー源、貿易相手、外資を絶たれてしまった。何年も連続した自然災害は朝鮮の農業生産を荒廃させた。アメリカの制裁と禁輸措置は、朝鮮の貿易に厳しい制限を加える効果をもたらした。

 世界最大の核大国・アメリカが支える3万7000の半島駐留軍と連合を組む韓国の増える一方の軍事支出は、朝鮮の主権をしばしば脅かすものである。また北側からすれば、米国の戦略的核配備(92年に撤収)や朝鮮東海(日本海)の空母を基地にした核爆撃機、さらに米国本土からの大陸間弾道ミサイル(ICBM)など、恒常的な核攻撃の脅威にさらされている。そのため、朝鮮が安保上の懸念を抱くのは無理のないことであり、イスラエルやパキスタンの場合と同様に、主に外部からの脅威に対抗するテコとして核兵器の獲得に関心を持つに至ったといえる。

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