取材ノート

1枚の絵


 出張先で足を運んだ第31回在日朝鮮学生美術展。そこで出会った1枚の絵が強く印象に残っている。

 神戸朝高2年、成俊男君の油絵。1枚のキャンバスを縦横に区切り、右上を白、左上を黒、右下を黒、左下を白と、左右、上下対照に塗り上げている。

 題目は「選択」。このテーマを選んだ動機について、成君はこうつづっていた。

 「今、自分たちは人生の中でもかなり重要な位置に置かれていると思ったからです。…何事も後悔しないように自分に合うように選ばなければならないと思ったからです。…選択というのは2つに1つの紙一重のものだと思います…」

 展示された500近い作品を見ていると、子どもたちの喜び、怒り、願い、叫びが聞こえてきた。その中でも成さんの作品が目に留まったのは、黒と白という対照的、相容れぬ色で自らが置かれた状況をはっきりと表現していたからか。

 9.17から2カ月。成さんの描いた黒と白が「日本社会とわたしたち」に置き換えられ、大人が知りえぬ彼、彼女らの胸の内が頭をよぎった。加熱する拉致報道、いわれのないいやがらせで精神的に追い込まれている朝鮮学校の児童、生徒、そして日本学校に学ぶ同胞の子どもたち。彼らを守り、救うのはわれわれ大人たちだと突きつけられた。

 同時に先日、名古屋ドームで行われた「ドーム祭典」で見た愛知中高、東春初中の女生徒たちの姿が目に浮かんだ。チョゴリを身にまとい、日本の生徒たちと朝、日、英で「翼をください」を歌った彼らは言った。「ウリマルで歌えて嬉しかった」―。

 ずしりと来る言葉だった。

 10万人が集う大イベントへの初出演。この機会を作ったのは朝鮮学校と、交流を続けてきた日本の教員と子どもたちに自信を与えたいと尽力した朝鮮学校の教職員だ。できることはまだまだあると思った。(純)

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