朝鮮大学校
絶滅に瀕するクロツラヘラサギの保護・増殖に中心的な役割
鄭鐘烈・教育学部学部長
「1995年、朝鮮で足輪を付けたクロツラヘラサギが昨日、香港で再確認されたとの知らせがメールで寄せられた」。先日、研究室を訪ねると鄭鐘烈教授の元気な声が耳に入ってきた。教育学部学部長として民族教育を担う人材育成に尽力する一方で、世界的に絶滅の危機に瀕しているトキ科の渡り鳥、クロツラヘラサギとツルの保護・増殖に取り組んでいる。その活動には国際的な協調が求められるが、「その中心的な役割を果たしているのが鄭教授」(日本鳥類学会会長の樋口広芳・東大教授)とも言われる、国際的な鳥類学者でもある。
渡り鳥を保護するうえで重要なのは、まずその鳥の越冬地、繁殖地、それに渡る途中に休む中継地を保護することだ。 研究のきっかけは、87年、朝鮮の鳥類研究者が初めて日本に招かれて開かれた「日朝渡り鳥保護シンポジウム」に携わったことから。「ただ入手した資料を翻訳するだけではなく、北と南の研究者と同じ土俵に立って研究していけば、朝鮮と日本、北南朝鮮間の真の橋渡し役になれるのではないかと思った」という。日本に生息する550種の鳥の約4分の3が渡り鳥で、その3分の2が日本と朝鮮半島を行き来している。以来、それまでの微生物の研究だけではなく、鳥類研究や朝鮮半島の自然保護にも深くかかわるようになった。 91年には、日本野鳥の会、朝鮮科学院自然保護センター、朝鮮大学校の3者間による「共同研究合意書」に基づき、人工衛星を使ったツルの渡りルートの追跡調査を実施。それまでベールに包まれていた北南朝鮮にまたがる非武装地帯がツルの越冬地、中継地として重要であることを科学的データで実証することができた。95年には追跡調査の結果、その重要さが明らかになった文徳(平安南道)と金野(咸鏡南道)の2カ所が、世界で初めてツルの渡り中継地保護区として指定されるまでに至った。 一方、94年の第21回バードライフ世界大会アジア部会では、クロツラヘラサギの繁殖地の現状報告および国際的な保護ネットワークと研究プロジェクトの構築を提案。96年、そのための国際プロジェクト(7つの国と地域が参加)が組まれ、研究責任者に抜擢された。 クロツラヘラサギはこれまでの調査の結果、約950羽しか生息せず、しかも繁殖地は朝鮮西海岸沿いの無人島だけで、越冬地は中国南部の香港、台湾、ベトナム、日本の九州地方(一部の群は済州島も)であるという、東アジアの貴重な固有種であることを突き止めた。この鳥は今年9月、移動性野生動物種の保全に関する条約(ボーン条約)で、保護対象鳥類11種のうちのひとつに指定され、国際条約(102カ国加盟)により保護されることになった。 一方、87年、朝鮮から取り寄せたクロツラヘラサギを東京都多摩動物公園と朝大の「鳥類繁殖研究サークル」が共同で繁殖研究を始め、96年に世界初の人工繁殖に成功。今年には学生たち自らの手で繁殖させ、大学内では「愛鳥ブーム」を呼び起こしているという。「自然環境が破壊されていない非武装地帯などの繁殖地を、北南朝鮮の統一後に保護区化させる」ことが鄭教授の当面の目標だ。 |