センターよもやま話―生活の現場でC
山積する同胞固有の問題―なぜ相談業務か?
座談会(上)/大阪・生野南センター
各地には167の同胞生活相談綜合センター(支部131、県31、地方5)が設置され、同胞の生活に関わるさまざまな相談を受けつけている。99年7月に設立された大阪・生野南同胞生活法律相談センターは、相談業務を通じて地域同胞社会のネットワーク拡大を目指してきた。同センターの邵哲珍所長(40)、相談員の洪東基・介護支援専門員(43、共和病院勤務)、金完圭・司法書士(29)に過去3年間の相談業務とセンターのあり方を話してもらった。
悩み掘り出す
―改めてなぜ相談業務なのか。 金完圭(金) 日本社会を見渡しても法律相談が増えている。総聯のセンターだけでなく、区役所、政党、弁護士会、司法書士会などさまざまな団体が主催しているのは、法律を知らない人が多いからだ。つまり、すべての人の権利が主張しきれていない。そのうえ、在日同胞に関して言えば地域の市民相談では対応できない問題がたくさんある。 それは、日本の専門家の多くが同胞特有の相続や生活保護の問題を理解できないからだ。同胞自身がこのことを実感している。不況でどこも大変だが、大阪の場合、生野、東大阪の同胞はとくに大変だ。生活保護受給率も日本人に比べて高いが、問題の根っこに何があるのかと聞いても、「ほとんど知らない」と言う。 洪東基(洪) 生野区の共和病院でソーシャルワーカーをしているが、1世の同胞は法律を知らない人が多い。例えば大阪市は無年金状態に置かれている外国人高齢者に福祉金(月額1万円)を支給しているが、行政からお金をもらえないと思っている人もいる。生活保護に関しても対象外だと理解している人もいる。 だからこそ、「こういう制度がありますよ」と一声かけることが大事だ。00年から介護保険制度がスタートしたが、とくに新しい制度の場合、かみ砕いて説明しないとわからない。 邵哲珍(邵) 同胞が抱える問題の複雑さは解放後、日本社会において在日同胞が底辺に置かれたことと関係がある。今日も本質的には変わっていないのではないだろうか。 とくに同胞高齢者は、社会保障から置き去りにされている。同胞高齢者の場合、年金に加入したくても国籍条項が設けられていたことから、加入できなかった。在日同胞の生活保護受給率が日本人に比べて高い背景には大量の無年金者の存在がある。 介護保険の問題にしても、行政は在日同胞のことは頭にない。1世の多くは日本語の読み書きができず、植民地支配の体験から日本の行政サービスに対する不信が強いため、制度にアクセスすらできない。同胞高齢者が介護サービスを理解し、利用しやすくするためには、日本人と同じ対応ではだめだ。町内会の掲示板に易しく説明を書いて家族の理解を求めたり、申請手続きを手伝い、無年金者の保険料を軽減するなど、個別の対応が必要だ。しかし、行政サービスというのは、画一的で機械化されており、同胞のニーズを拾うことができない。 同胞が抱える不安、悩みを掘り出すのが、センターの役割だと思う。 マニュアル化 ―年に300件近い相談が寄せられている。どのような対応を意識してきたのか。 洪 実態のない相談所は絶対にやめようと思ってやってきた。顧客の相談に対して何らかのアクションを起こそうということだ。 まず、初回面接でどこに適切に触れるか、という点が大事になってくる。顧客にとって最初の窓口はセンターに常駐している相談員だ。人によって能力の違いはあるが、相談の内容を丁寧に聞き、基礎資料をきちんと集めておくことだ。 邵 われわれのセンターは約20人の専門相談員を抱えている。日ごろは事務所に相談員が常駐するようにしているが、相談を受けてすぐ専門家に電話したら、失礼になる。また、法律に詳しい弁護士や司法書士と言っても仕事は多岐にわたるので準備を整えてアドバイスを聞いた方が能率は上がる。 金 専門家の立場から言えば、相談すべてを振られると一件一件の処理がおろそかになるので、相談の全容をセンターがきちんと把握、資料化していれば対処しやすい。次に同じような質問を受けた場合もそれをもとに判断ができる。マニュアル化が進めば対応も迅速になる。 洪 気をつけなければならないのは、相談者が持ってくる情報が十分ではないケースだ。すべてを包み隠さず言ってくれる相談者もいれば、自分に都合のいいことだけを言う人もいる。要は顧客から正確な情報をどれだけ引っ張ってこられるか。これがうまくできなければ、場合によっては不適切なアドバイスになってしまう。センター(支部)と同胞との間に信頼関係があってこそ可能だ。 きちんと処理
―相談の処理で難しかったことは。 邵 相談の処理形態は多様だが顧客の要望に沿えたかどうかで、「解決」「継続中」「未解決」「取り下げ」「終了」の5つに分類している。アドバイスを求められる場合と問題解決が求められるケースがあるが、解決を求められたケースの方が難しい。 洪 当初はそうでもなかったが、最近は難しい相談も増えている。 邵 例えば交通事故の相談で解決を求められた場合、示談、それがだめなら民事訴訟まで持っていかなければならない。解決能力が問われるし、専門家の意見も複数聞く必要がある。資料も集めなければならない。交通事故に関しては民間の交通事故処理センターがあるが、そういう情報も含めてきちんと伝達することが必要だ。 金 相談業務を通じての教訓は、センターと専門家、センターと同胞の信頼関係があって初めて問題を解決できるということ。センターが相談を聞く仕事をおろそかにしていたら、そのうち同胞は来なくなる。また、専門家のアドバイスが適切でなければ「最後まできちんと処理しない」と同胞は逃げていく。リピーターも増えない。 邵 同胞社会で「法律は生活のための手段」という考え方を浸透させるべきだ。不況で破産、倒産が増えているが、「自己破産」もひとつの救済方法だ。しかし、破産したら社会の落ちこぼれ、今後仕事もできなくなる、という誤った認識が根強く、生活の再生をじゃましている。法律の趣旨や内容が伝わるだけでまったく違ってくる。(続) |