平和と非暴力の21世紀めざし「女たちの戦争資料館造りたい」
ジャーナリストの松井やよりさんがん公表で「熱い願い」、
東京で「健康回復願う集い」
旧日本軍の性奴隷制を裁いた「女性国際戦犯法廷」(「女性法廷」)の提唱者でジャーナリストの松井やよりさん(68)が10月28日夜、「松井やよりさんの健康回復を願う友人の集い」に出席し、重い肝臓がんにかかっていることを告げた。松井さんは「余命がどのくらいあるかは分からないが、残された時間のすべてを使って女たちの戦争と平和資料館」を造りたいと力強く語った。
d d 松井さんががんを公表したのは、「平和と非暴力の21世紀を築く闘いを後進に引き継ぎたい」という思いから。10月初め、訪問先のカブールで不調を感じて倒れ、急きょ帰国して検査の結果、重い肝臓がんに侵されていることが判った。 その時松井さんは死の恐怖がよぎって、眠れないまま夜が更けていく中で、ふと、「女たちの戦争資料館というアイデアがひらめいた」と言う。そして資料館の実現のためには、老後の貯えやマンションなどを全部提供しようと決心。「そう思うと、死に直面することの無念さや悔しさが消えて、これが今私に与えられた使命ではないかと思い至り、心が鎮まった」と心情を語った。 松井さんは資料館の構想を、過去の歴史を踏まえて@「慰安婦」問題に関する資料をできるだけ集め、保存し、公開する場にする。文書・写真・映像資料を集めて、未来の世代の教育に生かすA女性による平和を創る活動の拠点にする。日本の過去の戦争犯罪だけでなく、世界各地の武力紛争と女性への暴力、米軍基地の性暴力に関する資料の収集、公開。それを教育や行動の場に利用する―などとした。 d d 松井さんは2年前の「女性法廷」を前にして本紙記者とのインタビューでなぜ、この問題に取り組むのかについて語ったことがある。 朝日新聞記者時代に、アジア各国を30年間取材して、急激な経済成長の裏で、貧困や買春、凄まじい人権侵害と環境破壊の犠牲になった人々と出会った。「痛みを力」にパワフルに生き抜く女性たちから「どれほど勇気づけられてきたでしょう」と当時を振り返った。 「キーセン観光や公害輸出、開発独裁と結びついた日本の援助の仕組み。開発独裁に伴う軍事化の暴力にさらされながら、先頭に立って闘う女性たちの姿を伝えた。しかし、記事を書いても載らないことが多い。あげくには『なぜ日本の恥をそんなに書くんだ』と非難された」 それであきらめないのが松井さん流。「マスコミがだめなら自分たちで」と78年に「アジアの女たちの会」を作って、「韓国」の民主化運動との連帯活動にも関わった。そして、90年代に入って、日本軍性奴隷制被害女性たちを訪ねて回った。 その出会いを導いたのが尹貞玉・元梨花女子大教授。尹さんは被害女性たちとほぼ同世代。日本の植民地時代の受難を通して「彼女らの苦痛をわが身の苦痛」として受け止め、「歴史の闇の中に忘れ去ることは、彼女らを2度殺すことになる」という烈々たる気迫でこの問題に取り組んできた。80年代からアジア各国の被害者の足跡をたどり、その調査の記録を90年1月、ハンギョレ新聞に発表した。これが起爆剤となって「韓国」の女性団体が行動を起こし、世界中へと波及した。 松井さんは尹さんの果たした役割に高い敬意を持ち、90年代から「韓国」はじめ各国の被害女性の丹念な取材を重ねていった。松井さんが「ナヌムの家」を訪ねた時、「ゴミのようなクズのような、何の値打ちのない私の所に訪ねて来る人がいるんですか」と盲目のハルモニが語りかけてきた。「その時、だれがこういう目にあわせたのか、責任を明らかにしなくてはならない」と松井さんは強く思った。その衝撃が女性法廷実現の原動力となったのだ。「国家が義務を果たさないなら、民衆がそれを行う」という思想の原点がここにあった。 松井さんは国際的な女性連帯行動の中心として、まさに八面六臂の活躍を続け、困難を乗り越えて2000年12月、ついに女性法廷の開催を実現させた。南北朝鮮や世界各国の被害女性たちも参加したこの法廷は、日本の最大のタブーとなっている昭和天皇の戦争責任を裁いたのである。松井さんはその法廷で「日本政府が法的責任を取るように国際世論を強めたい」と力強くアピールして、満場の拍手を浴びた。 d d 「友人の集い」で松井さんは自らの半生を「差別や搾取や不正と闘う激しい怒りに突き動かされて行動した人生」だったと振り返った。そして、「今、何よりも誇りに思えるのは、踏みつけにされているいと小さき者≠フ側に立って、権力に抵抗する姿勢を貫くことができたこと」だと語り、「すばらしい資料館を共につくる仲間になっていただきたい」と訴えた。性差別とひたすら闘ってきた人の「最後の願い」は、会場を埋め尽くした人々の心に染み入るものであった。(朴日粉記者) ◇ ◇ TEL・FAX 03・3818・5903。Eメール=vaww-net-japan@jca.apc.org |