朝鮮の食を科学する(10)

寒さ厳しい朝鮮の風土が生んだ

日本でも大人気、キムチチゲの辛味


 気候が寒くなっていくこれからは鍋もののシーズンである。チゲ鍋料理は日本でも商品が出まわるくらいすっかり知られた朝鮮の鍋ものメニューの代表である。

煎骨とチゲの違いは?

 チゲとは、水分のある鍋もの料理のひとつで、いわゆる「汁もの料理」の意味である。

 この汁もの料理は、汁の多少によっていくつかに分けられる。汁の多いものがクッ、または湯と呼ばれる。スープのことである。

 このスープに対して、同じ汁もの料理でも鍋を温めながらいただく料理が煎骨とチゲである。共に水分量がスープより少ない。正確には煎骨よりチゲの方が水分が少なかったが、いまはほとんど区別されていないようだ。では煎骨とチゲの違いは何か。具材の入れ方と味の付け方にある。煎骨は肉水(肉類からとっただし汁)を鍋に注いで熱しておく。別に調理した料理や具材を鍋の脇に置き、だし汁を温めながら好みの具材を鍋に入れながら、味のついたものからいただく。味は大体しょうゆで整える。料理材料をあらかじめだし汁鍋に入れないのが、煎骨料理の特徴で、その代表メニューが神仙炉である。ほかに「ソコギ煎骨」「生魚煎骨」「豆腐煎骨」などがある。

 これに対してチゲは器に、みそのテンジャン、コチュジャン、アミの塩辛などを水で溶いて、とろみが出る程度に味を整えておく。この味つけに何を使ったかによって、テンジャンチゲ、コチュジャンチゲ、塩辛(チョッカル)チゲなどに呼称が分かれる。別には具材として何が多く使われるかによって豆腐チゲ、魚介類の生鮮チゲ、野菜チゲ、肉チゲなどと呼ばれることにもなる。

 煎骨とチゲとは同じく鍋類を使う汁もの料理であるが、この区別をできない人が多いのが現状である。本場の韓国家庭料理店の料理人ですら、この区別ができないのだと、年配者たちの嘆きを聞かされることがある。

 チゲ鍋の場合、器は土鍋タイプで金属鍋ではない。器に汁をつくり、各種の具材を容れ、鍋をグツグツ煮て、煮上がったものを鍋ごと食卓に移していただくのがチゲ料理の特徴であった。匙で具と汁を鍋から取り、熱くて濃い汁のだし汁をすするようにいただくのがチゲ料理の醍醐味である。チゲ鍋にはトゥッペギ(巾壕奄)と呼ばれる小型で広口、鍋型をした蓋のない器が一般的である。肉厚の土鍋は保温力がよいので、直火で煮立てるほかに、ご飯釜の中に置いて「蒸す」方法で加熱することもあった。

 朝鮮時代の宮廷料理にも、このメニューはよくつくられた。宮廷ではチゲとは呼ばず「鳥雉」と呼ばれた。よく調理されたのは「鶏塩辛汁鳥雉」で、鶏肉を塩辛の汁で仕上げている。いまでもこのメニューは市中の庶民料理にみられるのだが、上品な部類に属するチゲといえよう。鶏肉が使われる前はおそらく雉肉が使われていたらしく、そこから「鳥雉」という名がついたようである。

 庶民のチゲ料理は豆腐チゲ、コチュヂャンチゲ、テンジャンチゲ、キムチチゲであろうか。

清国醤の味こそ本物!

 いま日本ではキムチチゲが大人気である。寒さを吹きとばしてくれるキムチの辛味、熱い汁はご飯にぴったりのメニューである。

 豆腐チゲを好まれる方も多い。この味のポイントは豆腐にあるが、本場の朝鮮・韓国の豆腐は日本のそれとちがって硬い。豆腐チゲの豆腐の厚さをうすくしてあるのは、そのためである。

 テンジャンチゲのみそ味は清国醤という大豆のみでつくられる。日本の納豆タイプのものである。

 この味と匂いに馴れた人は豆腐チゲなど、ほかのチゲ鍋にもこれを用いる。テンジャンチゲはこの清国醤でないと本物でないとする人がいるくらいである。

 冬の寒さの厳しい朝鮮の風土から生まれたチゲ鍋料理、その正確な知識を身につけて、おいしいチゲ料理に挑戦していただきたい。(滋賀県立大学教授)

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