釜山アジア大会 -中-
ともに叫んだ「統一祖国」「われらはひとつ」
「南の応援に励まされました」
何の境界線も存在しない
今大会、もっとも「ひとつの民族」を意識させられたのは、各競技場で繰り広げられた北と南の応援の姿であった。大会初期は別々の応援をしていたそれぞれの応援団も、3日目にはすでに呼吸を合わせ、競技場を「統一への応援」の場と変えていった。 北の応援団が「チョグク(祖国)!」と叫ぶと、南の応援団が「トンイル(統一)!」と応え、ふたたび、「ウリヌン(われらは)!」と叫ぶと、「ハナダ(ひとつだ)!」と応える。北の応援団と南の応援団が「パンガッスムミダ(お元気ですか)」「ウリヌン ハナ(われらはひとつ)」などの歌を大合唱する声が会場を埋め尽くした。北の選手も南の選手もなく、北の応援団も南の応援団もなく、みんながひとつとなって同じ民族の活躍に声援を送った。競技場にはまったく北と南をわける境界線は存在しなかった。 「統一への応援」に大きな役割を果たしたのが南の「統一アリラン応援団」である。北の選手が出場する競技場に「ウリヌン ハナ(われらはひとつ)」と書かれた赤いTシャツ姿で必ず姿を見せていた彼ら、北の選手団を応援するために市民らが自発的に組織したものだ。9月に結成し新聞広告などで募集したところ、瞬く間に数千人の「北サポーター」が釜山だけでなく南の各地から集まり、大会期間中も増えつづけたという。「ト〜ンイルチョグク(統一祖国) チャチャッチャ、チャッチャ」と声を合わせて叫ぶ彼らの応援は大会の名物となった。 統一アリラン応援団の企画団長・ソ・ヨンジェさんは、「北の選手たちが大挙参加すると聞いて、応援を通してわれわれがひとつの民族であることを示し、統一に少しでも貢献したいと応援団を作ることにしました。北の選手たちの活躍、北の応援団の姿を見ると涙が出てきます。6.15共同宣言以後、南でも統一の雰囲気が非常に盛り上がりました。今大会はまさに、統一が進行中であることを示しています」と落ち着いた口調で語る。 「血と血が引き合うように」
北の選手たちに声援を送ったのは応援団に集結した人だけではない。子供から老人まで、一般の市民たちが学校や職場、地域単位で競技場に駆けつけた。また「統一への応援」は北と南の直接対決の試合でさらにヒートアップした。 10月3日、女子ソフトボールの北南試合で北チームを応援していたキム・スチョルさんは、「北からたくさん応援に来られないので私たちが同じ民族として応援しようと思いました。釜山で北の選手たちと会える、これほどうれしいことはありません。初めて北の人たちと接しましたが、血と血が引き合うような感覚をおぼえました」と語る。 10月9日、女子サッカーの北南試合の会場に姿を見せていたのは釜山市のヨンソン中学校の生徒たち800人。生徒たち自らが北の選手たちを応援しようと話し合い、学校全体で駆けつけたという。2年生のコ・ホノくんは「同じ民族だから応援に来ました。試合の結果はどうであれ、勝つのは私たちの民族でしょ」と笑顔で答えてくれた。 大会期間中、何度も「なぜ北の選手を応援するの?」という質問を投げかけたが、多くの人たちが怪訝な顔をし「同じ民族だから当然でしょ」という答えを返してきた。 南の民衆の応援に、北の選手たちも大きな力を発揮することができた。女子マラソンで優勝したハム・ボンシルは、「沿道につめかけた南の市民の応援に大きく励まされました。その期待に応えられてうれしい」と感謝を表した。釜山で行われた今回の大会は、南の選手はもちろん、北の選手にとってもホームで戦うのとまったく同じであったと言える。 (琴基徹、千貴裕記者) |