生涯現役

鄭仙玉さん(66)

業績より質にこだわりたい


 背筋をしゃんと伸ばして、対話をする相手とまっすぐに向き合う。丁寧な語り口調の中にどこかどっしりとした重みを感じさせる。

 愛知県知立市、知立衛生株式会社・代表取締役の鄭仙玉さん(66)。同社は、人口7万4000人の知立市内の衛生事業を一手に引き受けている。

職場の環境

社長の執務席は社員と同様、事務所内に設けてある

 1961年の創業以来、愛する夫と手を携えて営んできたこの会社を鄭さんが取り仕切るようになったのは、悲運にも夫の死によってであった。結婚5年目のある日、「きれいな仕事じゃないけれど、人間がものを食べて生きてくかぎり、かならず後ろについてくるもの」と、仕事の大切さを教えられ、以後、夫の右腕として働いてきた。社訓は、「努力、継続は力なり」。スポーツ選手や学者の成功が日々の努力の上になりたつように「日頃の積み重ねがものをいう」と、鄭さんは説く。

 毎朝7時50分からはじまる朝礼では、全社員そろってラジオ体操をする。そして、職員3人が交代で朝のスピーチを行う。1、15日は社長がスピーチをする日。「知立衛生という環境の中で、職員たちが人間的に少しでもグレードアップしてくれれば良い」と鄭さんは考える。

 ほかにも同社では、隔月ごとに勉強会、スポーツ交流会を行っている。偶数月の勉強会では、職員2人による発表会が。テーマは、清掃の手順など業務内容に関するものが多い。「これでその職員がどれほど仕事に真剣に取り組んでいるかがわかる」。発表は抜き打ち、社員はちょっぴり緊張する。

プロ意識

 鄭さんは職員らに「プロ意識」を持てと強調する。街の人に聞かれたとき、ひとつでもふたつでもしっかりと答えられなくてはプロとして恥ずかしい。自身も危険物取扱者、浄化槽維持管理点検、建築土木2級免許などの資格を取得した。

 朝のスピーチや勉強会での発表は、いつしか職員たちの身となり、ある者は「結婚式のスピーチで人前であがらずにしゃべれた」と、感謝を述べてきたという。

 子供を育てる母親のように、社員たちの人としての資質をも伸ばしていく鄭さん。彼女の執務席は一般社員同様、事務所内に設けられている。別個に社長室があるが執務中は入らない。「ともに働くと、現場の様子が見れる」からだ。

 365日、休むことのない仕事。夫とふたりで立ち上げた会社を輝かせるのが生涯の任務だという。「業績よりも職員のレベルにこだわりたい」。やる気と活気にあふれる職場をめざす。「朝起きて、あ〜行きたくない」じゃなくて、「さあ、行こう!」と思える職場を。「それは管理職の責務でしょ」とにっこり笑う。

現役プレーヤー

合弁事業先の祖国の従業員たちと。訪問時には必ずバレーボールを楽しむ

 子供の頃から運動神経は抜群だった。同胞女性らのバレーサークルとの出会いは35年前のこと。バレーボールを通じて「ハナ、トゥル、セッ、ネッ」という朝鮮語を学んだ。ほかにも「タンギョル」「パッチャ」などがバレーで学んだ言葉。86年、在日本朝鮮人愛知県バレーボール協会・会長に抜擢。

 祖国との合弁事業も手がけていて、訪問時には祖国の人たちとバレーボールを楽しむ。「バレーを通じて、コミュニケーションを図りたい」。点を入れたら喜び、外したら悲しむ。人間の喜怒哀楽は万国共通。

 御年66歳。まだまだ若い。「人生山あり谷ありと言うけれど、人生においてここで終わり、というきまりはない。人生は無限大」。鄭さんには、まだまだ輝き続けてもらいたい。
(金潤順記者)

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