緊急シンポ「ピョンヤン首脳会談の意味を考える」―基調報告

「朝・日間の歴史に新たなページを」

韓桂玉(大阪経済法科大学客員教授)


 日本の小泉首相が朝鮮民主主義人民共和国の平壌を訪問して金正日国防委員長と会談、歴史的な朝・日平壌宣言が発表された。これは宣言の全文で双方が「共通の認識」として確認しているように、「朝・日間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治・経済・文化関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与する」ものとして、内外から大きな支持、歓迎を受けた。「朝・日関係だけではなく、北朝鮮と世界の間に歴史的な突破口を開く可能性」を指摘する声もある。

 だが会談で朝鮮側から示された、「生存者5人、死亡者8人」という拉致者の安否情報は衝撃的であった。事実を認めておわびをし、再発防止を確約したが、朝鮮側は全容解明と原状回復を果たすべきである。

在日のやりきれぬ思い

 朝鮮側は当初から、「被害者の痛みを和らげるために最善を尽くす」として日本側調査団の入国・調査にも全面協力しており、被害者5人は現在、日本に一時帰国している。

 一方、朝・日平壌宣言の合意に基づき、国交正常化会談が29日からマレーシアのクアラルンプールで開かれることも決まった。

 だが1カ月が過ぎた今なお、日本のメディアや世論は、朝・日平壌宣言の重要さ、歴史的な意義よりも、もっぱら拉致問題に集中し沸き立っている。その渦中で在日朝鮮人学童や団体などに対する暴行や脅迫などが続発、朝鮮人学童はチマ・チョゴリによる通学が不可能になっている。

 在日同胞たちは、やりきれない思いの中にいる。拉致被害者のことを思いやり胸を痛める一方で、過去1世紀にわたる日本の朝鮮に対する忌わしい過去について想起せざるを得ないからである。

 遠くは倭寇や豊臣秀吉の朝鮮侵略はさておくとしても、20世紀初頭からの植民地支配下の略奪、民族抹殺政策、徴兵、徴用、従軍慰安婦の強制動員、強制連行は数百万人に及び、数十万人が戦場や後方で犠牲となった。3.1独立運動や抗日武装闘争では十数万人が殺傷され、関東大震災では6000余人の朝鮮人が日本の軍、警、民間自警団によって無惨に虐殺された。

 日本の敗戦によって解放された朝鮮は、日本が朝鮮を植民地支配し侵略戦争の後方基地にしていたために南北に分断されてしまった。戦後においても日本の朝鮮敵視政策は続く。朝鮮戦争では旧日本軍人が米軍の上陸作戦などに参加し、日本で作られた爆弾が朝鮮全域に降り注いだ。その朝鮮特需が、日本の戦後経済復興の原動力となった。

 1965年、日本は分断一方の南側とだけ条約を結んで国交を開き、「朝鮮半島における唯一合法の政権」だとすることによって北側を敵視し、南北分断固定化に手を貸した。そして今なお、朝鮮民主主義人民共和国は、日本にとって世界で唯一、国交のない、近くて遠い国となっている。

 在日朝鮮人―植民地支配下の強制連行か、日本に流浪してきた人々・その子孫たち―に対しても、日本は一貫して民族蔑視、同化、差別政策で通してきた。朝鮮人学校閉鎖や、何か事あるたびに起きる朝鮮人学童への暴行や嫌がらせがそれを表徴している。

友好的、協調的な関係へ

 今回の平壌首脳会談と朝・日平壌宣言にはこうした朝・日間の敵対的で非正常な過去の関係を清算して正常化し、相互信頼と友好的、協調的な関係を築いていこうという双方の意思が込められている。

 金正日国防委員長は首脳会談で小泉首相に対し、「朝・日間はこれまで近くて遠い関係にあったが、この会談を契機に真の意味で近くて近い国にし、近くて遠いというのは前世紀の遺物にしたい。共通の意思、共通の努力により、両国関係の歴史に新たなページを開いていきたい」と語った。

 これに対して小泉首相も会談後の記者会見で、「この共同宣言の約束を、お互い誠意を持って実施していくことが肝要だ。日朝平壌宣言の原則と精神が誠実に守られれば、日朝関係は敵対関係から協調関係に向けて大きな歩みを始めることになる」と述べている。

 これらの発言は、不幸な過去の関係と決別し、新たな友好関係を期待する両国民の念願の表れでもあると信じる。日本の最近の世論調査で、朝・日国交正常化を支持する声が58%に達し、反対(28%)を大きく超えていることがそれを裏付けていると言えよう。

恨みと対立を乗り越えて

 今こそ、ほぼ1世紀にわたって積み重ねられてきた朝・日間の恨みと対立の歴史としがらみを乗り越えて、両国間の歴史に新しいページを開くべく、朝・日平壌宣言を誠実に実施し、国交正常化を急がねばならない。そのことを、心ある多くの日本国民に率直に訴え、共に努力していきたいと思う。(中見出しは編集部)

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