閑話休題

波乱の人生に幕

人一倍の深い情と勤勉さ


 今年の「敬老の日」に東京都足立区に住む金順熙・女性同盟本木七分会顧問が、交通事故で亡くなった。享年83歳。金さんは白内障と足腰が弱った90歳の夫を支えるため、4時に起きて、2時間の散歩をこなし、体を鍛えていた。そのいつもの日課の途中に起きた悲劇。「なぜ、顧問が、こんな目にあわなくてはいけないの。この世には神も仏もないの」と葬儀に参列した同胞たちが口々に語っていた。

 金さんは、13歳の時、済州道から大阪に来た。泉大津の近郊の紡績工場で、早朝4時から午後2時まで、7年間働いた後、結婚。空襲にあい、命拾いしたことも。解放直後に、長女と次女を連れ、帰郷したとき、小船に乗り込んだが、玄界灘の大波に襲われ、海に投げ出された。

 「どうして無事に生きていられるのか、今も信じられない」と金さんは話してくれた。以来、何度も見る恐ろしい夢。母として、2人の子を助けたいという気持ちの強さが夢に投影されているのでは、とその時に感じた。

 その後、大阪から東京に居を移した。総聯の結成後、足立支部委員長として多忙な日々を送る夫を支え、また23年間、本木七分会の分会長として活動。「生活費を家に入れたことがない」夫に生涯一言の不満も漏らさず、黙々と7人家族の生活を切り盛りし、地域同胞のために尽くした。「分会長の一番の思い出? それはね、女性同盟なんて入りたくない、と同胞女性から玄関払いされた時。それから3カ月、毎日、訪ねたよ。ある日、その女性が分会長には負けましたと言って、会費をくれた時だね」と、目を輝かした。波乱の人生の幕は下りたが、その人一倍の深い情と勤勉さを忘れることはできない。(粉)

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