本の紹介

民族関係における結合と分離

谷富夫編著−


都市における民族関係の可能性を解明

 従来の分離関係(民族の隠蔽、差別、対立など)の一面的な描写から脱皮しているのが特徴だ。編著者を含めた12人の執筆者が都市社会学の手法によって、在日同胞社会と日本人社会との結合関係がいかなる条件の下で、どのような形式と内容において可能かを、コリアン社会における民族文化と民族意識の諸相、社会移動、さらに日本住民との関わりからも検証している。

 本書の中の「世代間生活史」とコリアン集住地域の桃谷地区の実態調査から一例をあげよう。40年以上も大阪市内のある町で生活している同胞女性は、近隣の日本住民と共に経済的な相互扶助を目的とした「頼母子講」に加わり、彼、彼女らとの間に親密な民族関係を築いてきた。実際、筆者も含めて生野区に住んだことのある同胞にとって、自ら経験、見聞した事例がたくさん出てくる。

 そして、地域社会で民族を越えたネットワークが築かれてきた多数の事例から、集団間の利害関係や価値の共有などを持たない者どうしが接触した場合、民族性の違いが大きな障壁となり、それが民族差別のような対立した関係として現れると、指摘している。

 戦前から今日まで在日朝鮮人と日本人との民族関係は、差別―被差別関係や対立関係も含みつつ、きわめて豊富な内容を含むものであったことが分かった。

 だが、注文がないわけではない。これから民族集団間における結合関係はどのような社会過程を経て展開することができるか、そのグランドデザインを描いてほしかった。

 事項索引まで含めて761ページの大著であるがゆえ、在日コリアンをますます生きにくくさせている日本社会の現状に照らした歯切れのよい提言がほしかった。

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