閑話休題

ひとつになびく「風船現象」

田英夫さんの危ぐ


 先日、田英夫前参院議員の講演を聞きに行った。田さんと言えば、共同通信の社会部長の後、TBSの看板番組「ニュースコープ」のニュースキャスターとして活躍。公正な視点で、ベトナム戦争を報道、それが米日支配層の反感をかい、解任された人である。

 また、記者時代の59年に朝鮮への帰国事業を新潟で取材した際、後に日朝政府間交渉の朝鮮側団長になった労働新聞記者の故田仁徹氏と出会った。その後、93年に仁徹氏が亡くなるまで永く親交を結んだ。2人は毎年欠かさず、年賀状を交換。また、田さんの参院当選のたびに平壌の田さんから祝電が送られてきたと言う。

 田さんが、政界に転じて約30年間、人権や国際問題を専門としながら、外交、とくに日朝国交正常化に献身した陰には、このような秘話もあった。

 田さんの話は、もっぱら国会と保守色を強めるメディアをめぐる状況への憂慮に終始した。

 選挙で小泉首相の立ち会い演説に何万人の聴衆が群がる不気味さ。「いったい日本人はどうなっているのでしょうか。メディアもひどい。戦争観など小泉首相の考えの基本的なところが危ない。それをさらけ出すのがジャーナリズムの使命なのに、メディアには問題意識がない」と一刀両断した。それを田さんは「風船現象」と命名する。

 何百個の風船を風に飛ばすと一斉に1つの方向に舞い上がる様子と同じなのだと。言い得て妙。

 国会でも戦争の本当の怖さを知らぬ戦後世代が簡単に憲法の改正を口にする。ここでも右傾化の波が押し寄せている。2つの古巣を見る田さんの胸中は複雑だ。(粉)

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