現場から−田敬子(京都市立陶代小民族学級講師・54)

民族との出会いを道案内

言葉・歴史・文化教え自覚と誇り育む


 民族とは何だろう。一般的には歴史的背景と文化的伝統、言語などの共通性を持つグループとされ、民族的自覚や民族意識の継承は、そのグループ内で固有の言語と文化的伝統を通じて行われる。それが民族教育だ。

 だとすると、在日同胞の子どもたちはその民族の学校に通うのが望ましいはずだが、さまざまな事情により、現実的には多くの子どもたちが日本の学校で学んでいる。

 民族学級は、日本の公立学校に通う在日同胞の子どもたちが民族の言葉や文化、歴史を学ぶ場。自分の国を知ることによって民族としての意識と自覚を持ち、朝鮮人として生きていける子どもに育てることを目的としている。

 同胞社会で世代交代が進み、日増しに民族心が希薄になっている現実、約80%におよぶ子どもたちが日本の学校に通う現状において、民族学級はますます大切な場となっている。民族学級も民族教育の一翼を担っている。

 何もしなければ、知らなければ、日本の学校に通う子どもたちは、当たり前のように日本人になってしまうだろう。このままではいけないと、いつも強く思っている。

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 京都市には182校の市立小学校がある。現在、そのうちの3校に民族学級が設置されているが、京都の民族学級の歴史は約50年にもなる。

 私が民族学級を知り、講師になって25年になろうとしている。数多くの子供たちが民族学級で学び、巣立って行った。自分の国で生まれていたら当たり前のように朝鮮人として育ったであろう子どもたち。外国に生まれたがために、あえて学ばなければ言葉も文化も歴史もわからないのである。さらには自分が外国人であることも気づかないでいるのである。

 このような子どもたちにまず、本名を知らせることから始まる民族学級。子どもたちは3年生から6年生までの4年間、5人の講師の手によって作られたオリジナルの教科書で学ぶ。

 例えば、豊臣秀吉は日本の歴史では英雄だが、朝鮮の歴史の中では侵略者である。日本の学校で学ぶ歴史は日本の視点から見たものだから、言葉はもちろん、民族の歴史を学ぶことは、自分のルーツを知るうえでとても大切だ。自分にとって、また民族にとっての歴史を正しく知り、歴史を通じて自分のルーツを意識することで、民族としての自覚と誇りを持てるようになるのだ。

 堂々と本名で生きている子、朝青の活動に参加している子、同胞と結婚して家庭を築いている子…。民族学級で学んだ子どもたちは卒業後もさまざまな生き方の中で、民族の大切さを感じ、受け止め、生きていってくれるだろう。

 でも、まだまだ自分の民族を知らない子どもたちが多いのだ。どんな形であれ、1人でも多くの子どもたちに自分の民族と出会ってほしい。民族学級の講師として、そのための正しい道案内ができたらと思っている。

 「みんぞく(民族学級のこと)でならったことを、先生やオモニにたくさん、友だちにもおしえたい。日本人にも私たちの文化をもっともっとしってもらいたい。みんぞくこれからがんばるゾー」

 生徒の作文から引用したが、講師の私ももっともっとがんばらなくてはならない。

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