閑話休題

「天皇賛美」の教科書記述

「戦前回帰」批判の動き


 扶桑社の歴史教科書には「国民とともに歩まれた生涯」と題した、昭和天皇の人物コラムが2ページにわたって載っている。この教科書の問題点として度々指摘される、「天皇賛美」がこのコラムに象徴的に表れていると思う。

 「真面目で誠実」だという昭和天皇の「お人柄」を称え、2.26事件、ポツダム宣言受諾で「天皇ご自身の考えを強く表明し、事態をおさめ」、マッカーサーが「昭和天皇の人間性に感動した」などと並べてある。あの有名な「あ、そう」の発言でさえ、「素朴な対応に人々は天皇の真心を感じた」と称賛した。

 昨年の12月12日「女性国際戦犯法廷」で昭和天皇は日本軍が犯した「強かん、性的奴隷による人道に反する犯罪責任をおうもの」として有罪判決が言い渡された。世界と日本の歴史認識の溝はかくも深い。

 東アジアの民衆を不幸のどん底に陥れ、2000万人以上の犠牲者を出した日本軍は紛れもなく「皇軍」だ。それを無視して昭和天皇を語るというのはウソ以外の何ものでもないと思う。

 東京大学高橋哲哉助教授は7月、東京都内で行われた討論会で、現在の日本社会に見られる国家主義の台頭には、戦前の天皇制との連続性があると指摘した。この連続性は依然としてメディア、大学を含む教育現場においても根強く残っているとも。

 日本軍性奴隷の被害者の存在を否認し、侵略を正当化する教科書。歴史的事実を否定・わい曲し、過去を直視する動きを「自虐史観」と批判するメディア。これらの事象の中核にある天皇制をいま問い直そうとする動きに注目したい。(香)

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